「い・ろ・は・す」は常識の破壊で勝ち上がった

業界・企業・部署には様々な「常識」がある。そうした「常識の壁」に囲まれると、自由なアイデアや戦略を出せなくなる。そうならないためには、「仕方ない」「思い込み」「我慢」「無理」「ルーティーン」という5つの常識の壁を、意識的に壊すことが重要だ。

永井竜之介『マーケティングの鬼100則』(明日香出版社)
永井竜之介『マーケティングの鬼100則』(ASUKA BUSINESS)

「仕方ない」と社内で諦めていることや、顧客が諦めていることを、諦めないようにする。社内や業界で当然視されている「思い込み」を否定する。課題として認識しながらも、「我慢」する対象として見過ごしてきたことを解決する。暗黙のうちに「無理」だと選択肢から外していたことに挑戦する。疑いを持たずに従っていた「ルーティーン」を批判する。これら5つの常識の壁を一度壊してみることで、新たな戦略・プロダクト・価値などを見つけることができる。

日本コカ・コーラの「い・ろ・は・す」は、ミネラルウォーター市場に遅れて参入したにもかかわらず、「環境に優しい」という価値を武器に、勝ち上がることに成功した。その成功の背景には、多くの「常識」の破壊があった。

大人の男性である阿部寛さんの起用は象徴的だった

まずは商品名だ。物事の基本を意味する「いろは」と、健康と環境に良いライフスタイルを表す「ロハス」を組み合わせた、ひらがなの名前が採用された。しかし、ミネラルウォーターといえば、採水した地名をアピールするか、横文字でクールな印象を与えるのが業界の常識だった。社内から批判・不安視する声があがったが、開発チームは他社と異なる「環境性」という価値をアピールするため、案を押し通した。

次に、商品のテーマカラーである緑色も、業界の常識に反していた。緑はお茶の定番カラーであり、ミネラルウォーターの定番は白・青・水色だったからだ。反対意見も寄せられたが、「環境性」という価値を一目で伝えるため、緑色にこだわり抜いた。

そして広告でも、常識から外れることを恐れなかった。ミネラルウォーターの広告といえば、女性や若い男性を起用し、穏やかさ・ナチュラルさを発信するのが常識だった。しかし「い・ろ・は・す」は、大人の男性の阿部寛さんを起用し、サンボマスターによるロック音楽を採用して、「世界を変えよう」と力強く発信した。

数多くの常識を壊した「い・ろ・は・す」は、その大ヒットによって新たな常識を創ったことになる。

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