商品の価格は「安ければ安いほどいい」とは限らない。高千穂大学の永井竜之介准教授は「人気ゲーム機の新商品は『まず高く売る』価格戦略が採用されやすい。確実に人気を見込める商品ならば、高く売り始めた方が得策だからだ」という――。(第2回/全3回)

※本稿は、永井竜之介『マーケティングの鬼100則』(ASUKA BUSINESS)の一部を再編集したものです。

PlayStationの本体とコントローラー(撮影日不明)
写真=Gamma Rapho/アフロ
PlayStationの本体とコントローラー(撮影日不明)

価格設定に必要な「3つの視点」

プロダクトを発売するとき、重要になるのが価格設定だ。「いくらに設定すれば、最も効果的に顧客へ届けられるのか」は、とても悩ましい課題となる。

価格を設定するときには、3つの視点が必要になる。1つめは、顧客の視点だ。「この商品ならば、この価格で買いたい」と顧客が希望する価格ラインを見極めることで、価格設定の根拠とする。企業としては、基本的にはできるだけ高く売りたいため、顧客が「この価格なら、ギリギリ受け入れられる」と思う上限の価格ラインを発見できることが望ましい。ただし、業務用スーパーなどのように、圧倒的な低価格で顧客を獲得している場合は、逆の戦略をとることもある。「この商品が、どれだけ安ければ顧客は驚き、感動するか」という下限の価格ラインを見極め、その「驚きの安さ」を実現するところから逆算して、プロダクト開発をする。

魅力的な価格でも、赤字になったら元も子もない

2つめは、競合の視点だ。「ライバルとの競争に勝つには、この価格にする必要がある」という判断に基づいて価格を決める。ライバルよりも安く設定して「お得さ」で差別化するのか、高く設定して「高級感」で差別化するのか。あるいは、あえてライバルと足並みを揃えて価格での差別化をなくしたうえで、品質やデザインなどで勝負に出るのか。競争を念頭に置いた、様々な価格設定が考えられる。

3つめは、自社の視点である。自社の人件費やコスト構造を踏まえて、目標とする利益率を確保できる範囲で、価格を調整する必要がある。顧客の注目を集めるために「驚きの安さ」を実現しようとしても、それを実現できるだけのローコスト・オペレーション(※)ができるのかどうか。どんなに魅力的な価格でも、売れば売るほど赤字になってしまっては元も子もない。自社の実現可能範囲はどこまでか、を明らかにしなければならない。もしくは、自社のコスト構造に無駄がないかどうかを点検し、改善策を考える必要がある。

この3つの視点による価格設定を組み合わせて、あるいはいずれかを特に重視して、プロダクトの価格を決定することになる。

※無駄なコストをかけず、効率的な組織運営・ビジネスの仕組みを作り、機能させること。