※本稿は、渡邊康弘『没入読書』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
「昔は読めたのに」と嘆く現代人の実態
「昔は読めていたのに、働きはじめて読めなくなった」
学生時代には本を読めたけれど、働きはじめて本が読めなくなったという人も多いと聞きます。
三宅香帆さんの『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』という本もベストセラーとなり、いかにそう考えている人が多いのかがわかります。
この本での著者の主張は、「週5日ほぼ出社して、残りの時間を生活や人間関係にさいていたら、本を読む時間がないというのは当然。本を読む余裕のない社会っておかしくない?」ということ。
たしかに一理ありますよね。解決方法として、「自分と趣味の合う読書アカウントをSNSでフォローする」「iPadを買う」「帰宅途中のカフェ読書を習慣にする」「書店へ行く」「いままで読まなかったジャンルに手を出す」などが上がっていました。
ですが……仕事をしていて本を読む余裕が本当にないのだとしたら、こちらだけでは解決しないという人もいるかもしれません。
デジタル社会が奪った私たちの集中力
私なりに「なぜ働きはじめると本が読めなくなるのか?」を考えると、生活や人間関係に時間がさかれるだけでなく、「集中」が原因のひとつではと思案しています。
事実、私たちの集中時間はますます短くなる一方。
アメリカのカリフォルニア大学アーバイン校の総長特任教授グロリア・マークによれば、コンピューターの一画面に注意している時間は2004年に平均150秒でした。それが、2012年には75秒となり、さらに2016~2021年は、44秒~50秒(平均すると47秒)とどんどん短くなっています。
それに加え、ひとつの仕事領域に集中できる平均持続時間も10分29秒となっています。
社会に出ると、私たちは意識を切り替えることが多くなります。電話、メール、メッセンジャーなどのコミュニケーションツール、SNS、ウェブ検索、会議、同僚との会話、書類作成……意識を切り替えざるを得ないことが年々増えてきています。
だから「働きはじめると本が読めなくなる」
この意識の切り替えで、元の作業に戻るまで平均25分26秒の時間がかかることがわかってきています。
ADHD(注意欠陥多動性障害)を中心に、過去20年間研究してきたアメリカのボストン大学チョバニアン&アヴェディシアン医学部精神医学臨床教授のポール・ハマーネスは、デジタル社会の情報過多による刺激は、脳に注意散漫をもたらし、集中力不足をもたらしていると述べています。