仕事で良い結果を出すにはどうすればいいのか。脳科学者の茂木健一郎さんは「脳には『アイドリング状態』のときに活発化する神経回路がある。時にはボーッとすることも必要だ」という――。

※本稿は、茂木健一郎『意志の取扱説明書』(実業之日本社)の一部を再編集したものです。

将棋王将戦/対局を振り返る羽生九段
写真=時事通信フォト
第72期王将戦7番勝負第4局に勝ち、感想戦で対局を振り返る羽生善治九段=2023年2月10日、東京都立川市

常にマインドフルネスの状態を保っておく

10年、20年かけていろいろな経験を積み上げながら、脳によい幻想を見せ、自由意志を育むことの大切さをこれまで述べてきた。

では、実際に判断をするというときに、どんな状態に体や心を整えておけばいいのかについて、記していきたい。

先ほど、宮本武蔵の『五輪書』のところでも書いたが、マインドフルネスの状態を保つことは重要だ。

マインドフルネスという言葉は、よく見聞きするようになったが、端的にいえば座禅中の、瞑想しているときのような状態を指す。そうした中であれば、多くのことを同時並列的に感じられる。宮本武蔵の言葉、「何かに注意を置きすぎてはいけない。全体を柔らかく見なくてはいけない」と重なる。

われわれがいい選択ができないときというのは、往々にしてマインドフルネスがうまくいっていないことが多い。テンパった状態になって目の前のことしか見ていなかったりする。

成功者が口を揃えて言うのは、「タイミング」

たとえば恋愛でも、自分の思いばかりが先走ってしまい、相手が見えていない人は、恋愛に失敗することが多い。

ビジネスでも、自分がこういうことをやりたいという一方的な思いだけが強くて、相手企業の求めることや、社会状況がしっかりと見えていないと、失敗する。

僕も職業柄、いろいろな分野で成功した人たちに会ってインタビューをしてきたが、多くの成功者が口を揃えて言うのは、「タイミング」。

これはなかなか味わい深い話で、成功をしている人ほど、今はこの作品を出すタイミングではないということを察知して発表を延ばしたりする。その人たちは、今こそこの作品を出すべきだというタイミングを肌で感じるようなのだ。

それに比べて駄目な人は、何かを表現したいときに、自分の思いばかりが先走ってしまう傾向がある。だから一方通行になってしまう確率が高い。

ものを考えるときも、目の前のことに意識を奪われて視野が狭くなってしまうと、木ばかりを見て森をみない状態になって、別の視点から考えることができなくなって煮詰まるということがある。そういうときにマインドフルネスはとても役立つ。