クラシコムが運営する「北欧、暮らしの道具店」は、雑貨や衣料品の販売などを手がけるサイトだ。月間200万人ものユーザーを集める。しかも、提供しているのは商品だけではない。オリジナルの記事や動画、音声コンテンツもあるのだ。なぜこのような事業体になったのか、クラシコム代表の青木耕平さんと、共同創業者の佐藤友子さんに話を聞いた――。
クラシコム代表の青木耕平さん(左)と共同創業者の佐藤友子さん(右)
撮影=今村拓馬
クラシコム代表の青木耕平さん(左)と共同創業者の佐藤友子さん(右)

読み物は月80本ペース、動画や音声も発信

雑貨や衣料品のオンライン販売などを手がける「北欧、暮らしの道具店」は、2007年の開店から約15年で、月間200万人の顧客を集めるサイトに成長した。その特徴は、読み物や動画、音声といったコンテンツと、物販を組み合わせるという巧みな戦略だ。ECサイトでもあり、同時にメディアでもあるという独自のビジネスモデルはどのように確立されたのか。運営するクラシコム代表の青木耕平さんと、共同創業者の佐藤友子さんに聞いた。

ネットを介して顧客と直接つながるD2Cモデルでありながら、商品を販売するだけにはとどまらない。雑貨やオリジナルのファッションアイテムを暮らしの中にどう取り入れればいいのか、月80本ペースでリリースする読み物(ウェブ記事)を通して伝えている。動画や音声などのコンテンツにも果敢に進出。YouTubeチャンネルの登録者数は約48万人、ポッドキャストの再生数は月間約50万回と、ファンの心をしっかりとつかんでいる。

風変わりとも映るその立ち位置の狙いは? 青木さんは「やらざるを得ないと感じたことを実践してきたら、結果的に現在の形になった」と語る。

アマゾンや楽天と顧客を取り合っても、勝ち目はない

通信販売事業の成功を左右するポイントは2つある。1つは、新規の顧客といかにつながるか。もう1つは、つながった顧客に商品を買ってもらい、さらに継続して利用してもらえる関係を築けるかどうかだ。多くの事業者は、前者を実現するために広告を打ち、後者を促すためにクーポンの発行やセールの開催といったいわゆる「販促」を実施する。

「でもね、そのやり方を続けていけば、アマゾンや楽天などの巨大モールとお客さんを取り合うことになる。勝ち目がないでしょう」(青木さん)

「“いいコンテンツをくれる人”としてお客様と出会いたい」というならば、「勝てる」土俵を自らつくり出せばいい。
撮影=今村拓馬
「“いいコンテンツをくれる人”としてお客さんと出会いたい」という

ならば、「勝てる」土俵を自らつくり出せばいい。

同店は「今すぐ商品を買いたいと思っているお客さん」の争奪戦から、距離を置いた。買い物をする気はないがちょっとした隙間時間を持て余している、「将来お客さんになり得る層」に注目した。彼らに親しみを持ってサイトを訪問してもらえるようにするために考えたのが「コンテンツの力を活用する」というアイデアだった。

「読み物などをきっかけにして、当店を知ってもらう。そこで触れられるコンテンツの内容が面白ければ、何度も何度も訪れてもらえる。そうした中で『買おう』という機会も生まれてくる。お客さんに喜んでもらいながらビジネスとしての持続可能性も実現していくには、このやり方しかないと考えたわけです」(青木さん)

創業当初は楽天市場に出店していたが、2011年末には退店した。広告は絞り、その分のリソースを、質の高いコンテンツを制作することへと振り向けていった。