北欧のデザインだけではなく、カルチャーを伝えたい

「リボン=価値観」が生まれた原点は、店名の通り「北欧」にある。会社を設立した直後に始めた別の事業が失敗に終わり、「会社をたたむ前の思い出づくりに」と北欧旅行へ出かけた先で、現地の人々の暮らし方にカルチャーショックを受けた。

当時、青木さんたちを家に泊めてくれた男性はシステムエンジニアだったが、毎日夕方5時台には仕事を終え、親しい人たちとの団らんを楽しんでいた。そして、スティグ・リンドベリ(スウェーデンの代表的デザイナー)のヴィンテージのカップに、日本の南部鉄器の急須で中国茶を淹れ、もてなしてくれた。

「彼らは効率的に働き、暮らしを楽しむことを大切にしていました。日常を彩るさまざまなものを自分らしい感性で選び取り、生きがいや居心地のよさを感じられる毎日を自らつくっていた。単に『デザインが素敵だから』ということではなく、北欧のそういうカルチャーこそを日本の人たちに伝えたいと強く思ったのです」(青木さん)

「私たちみたいな誰か」に向けてアプローチをしている

その思いは、同社のミッションである「フィットする暮らし、つくろう。」という言葉と響き合う。店と顧客の関係性は、売る側と買う側という硬直的なものではなく、ミッションとして表現されている価値観に共感する人たちが集う、一種のコミュニティーとしての性格を持っている。

「不特定多数の誰かというより、『私たちみたいな誰か』であるお客さんに向けてアプローチしている」と佐藤さん。「例えば、インテリアの好みだとか、メイクはちょっぴり苦手だとか。『好き・嫌い』『快・不快』『得意・苦手』といった感覚を自分たちと共有できる人たちが、世の中の一部にはいるだろうという仮説のもとに事業をしています」

商品紹介ページにはスタッフ自らが登場し、商品の使い方や魅力を伝えている
撮影=今村拓馬
商品紹介ページにはスタッフ自らが登場し、商品の使い方や魅力を伝えている

社員は全員が中途採用だが、自社サイトを通じた募集に力を入れ、3カ月という長期間の選考を通して「価値観」を共有する。結果として社員の「元顧客率」は約8割となる。入社後、半年間は先輩社員がメンターとして付き添うなど、事業を運営していく中での判断一つひとつについて、互いの思考プロセスを丁寧に振り返り、すり合わせるコミュニケーションを徹底している。

自分に「フィットしている」と感じられる暮らしづくりを標榜する以上、無理な働き方もしない。プロジェクトごとの進行管理や個々のタイムマネジメントの仕方を工夫し、残業は全社の月平均でたったの4.3時間だという。コンテンツを企画する社員たちが、一個人として日々の暮らしを味わい「自分たち=お客さん」という感覚を持ち続けられるような環境が実現されている。