誹謗中傷の影響で、仕事も収入もゼロに
ストーカーの被害を受けていた髙橋さんだが、加害者がストーカー規制法で逮捕され、ほどなくして不慮の事故で亡くなってから一転、ネット上で加害者扱いされるようになり、すさまじいネット中傷を受けるようになった。
「フリーのアナウンサーとして仕事をしていた職場からは、『表に出るのはあなたのためにならない』という言い方で断りの連絡がありました。こういう時、フリーの立場は弱いですよね。あっという間に仕事がなくなりました」
収入はゼロになった。仕事先の関係者はもちろん、友達の多くも離れていき、中傷に加担する人までいた。人が怖くなり、家から外に出られなくなった。
「ある時、問題のある書き込みをネットから消してもらえるかもしれないと聞いて、法務局に相談に行ったんです。『該当する書き込みを持ってきてください』と言われ、自宅でプリントアウトしていると、厚さ30センチ以上になって、プリンターが壊れたほど。何とかコピーを持っていったら、『全部は無理です。どれにするか選んでください』と言われました。一部だけ消してもらってもあんまり意味がないのに、どこかひとごとなんです。それに、その頃はまだ、ネット上の中傷を取り締まる法律はありませんでしたから」
ひと度、自分の名前を検索すれば、10万件もの罵詈雑言が並び、ウィキペディアには「○○が自殺したきっかけを作った人物」とまで書かれた。
わかっているが、見てしまう
「警察に相談に行ったときには、『そんなもの、見なければいいじゃないですか』と言われました。それはわかっているのですが、見てしまうんです。見るのをやめても、『誰かがあのひどい書き込みを見ているんだ』と思うと、耐えられない気持ちになってしまう」
「人殺し」「まだ首を吊らないの?」といったメールも届く。「そんな毎日が続くと、『本当に死んだほうがいいのかな』という気持ちになってしまうんです」
その頃の精神は、ボロボロを通り越してすりつぶされた状態だったと振り返る。
「だけど、『自分が死んだあと、飼っていた3匹の犬はどうなるんだろう』『母が亡くなったばかりなのに、娘まで死んだら残された父は大丈夫だろうか』などと考えました。それに、僧籍の身では自死はできません。そんな折、伝教大師のご遺誡(最澄が残した言葉)にある、『怨みを以て怨みを報ぜば怨みやまず』という言葉が目に入ったんです。自分が怨みを持ったままでは怨みの連鎖は消えないという意味です。目に見えない人とやりあうことは、やめようと思いました」