なぜ原発は増設されようとしていたのか?
東京電力・福島第一原子力発電所の事故によって、2010年に閣議決定された現行の「エネルギー基本計画」が打ち出した、原子力発電設備を20年までに9基、30年までに14基新増設するという方針は、もろくも崩れ去った。
それにしても、日本の電力需給の実情からすれば必ずしも必要のない「20年9基、30年14基新増設」方針が打ち出されたのは、なぜだろうか。
原子力政策について、歴代の自民党政権が責任を持つべきであることは、明らかである。しかし、10年に現行の「エネルギー基本計画」を閣議決定したのは、民主党政権である。その背景には、いわゆる「鳩山イニシアチブ」が存在した。
鳩山由紀夫元首相は、一昨年デンマークで開催されたCOP15(国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議)において、「すべての主要排出国の参加による意欲的な目標の合意」を前提条件にして、日本としては、20年までに温室効果ガス排出量を1990年比で25%削減するという方針を打ち出した。
これが鳩山イニシアチブであるが、その構想どおり、25%削減を国内および真水方式(排出権取引や森林吸収源増加などを使わず、純粋に温室効果ガス排出量自体を削減する方式)で実行しようとすれば、省エネだけでは目標を達成できないことは明瞭である。
残る手段は、再生可能エネルギー利用発電の本格的普及か原子力発電の増強しかないが、太陽光発電や風力発電の現状を直視すれば、残念ながら、再生可能エネルギー利用発電の本格的普及は20年までに間に合いそうにない。
したがって、選択肢は原子力発電の増強だけとなり、「20年9基、30年14基新増設」方針が打ち出されるにいたったのである。
福島第一原発の事故により「20年9基、30年14基新増設」方針が崩れ去った以上、国内・真水・90年比25%削減を掲げる鳩山イニシアチブが破綻したことは、否定のしようがない。
鳩山イニシアチブに連動して09年に施行され、電力会社に原発新増設を強く迫る法的根拠となったエネルギー供給構造高度化法による「20年までのゼロエミッション電源50%義務づけ」も、廃棄されるべきである(ゼロエミッション電源とは、温室効果ガスをほとんど排出しない電源のことであり、具体的には原子力発電と再生可能エネルギー利用発電をさす)。
また、鳩山イニシアチブと同様に国内・真水方式で温室効果ガスを削減しようとする京都議定書の延長についても、日本としては応じるべきではない。