日本には原発に代わる温暖化防止の手段がある
それでは、鳩山イニシアチブを実現することができなくなった日本は、国際社会において地球温暖化防止の主導的役割を果たすこと自体を放棄すべきなのであろうか? 答えは、断じて
「否」である。
温室効果ガスの中心を占めるのは二酸化炭素(CO2)であるが、CO2排出量を、原子力発電を使って国内で減らす代わりに、石炭火力技術の海外移転を通じて国外で減らせばいいからである。
筆者は、この論点をプレジデント誌の当欄で繰り返し主張してきた(「新・環境標準『セクター別方式』を世界に広めるカギ」「プレジデント」08年11月17日号、「日本の石炭火力技術は世界のCO2削減の切り札である」「プレジデント」09年3月16日号、「費用対効果にみる、CO2削減『日本の二大カード』」「プレジデント」09年8月31日号、「『石炭火力と鉄鋼』日本の省エネ技術を世界へ」「プレジデント」10年3月1日号。)が、福島第一原発事故後の今こそ真価が問われる時期だと思うので、そのポイントをもう一度確認することにしよう。
90年の日本の温室効果ガス排出量は、12億6100万トン(CO2換算)であったから、その25%は3億1525万トンであり、鳩山イニシアチブの方針は、大まかに言えば、20年までにCO2排出量を3.2億トン減らそうとするものだということができる。
ここで求められるのは、最も多くCO2を排出する石炭火力発電所の効率を改善することができれば、CO2排出量を最も多く減らすことができるという、柔軟な「逆転の発想」である。
表1にあるとおり、08年の発電電力量に占める石炭火力のウエートを国別に見ると、日本が27%であるのに対して、アメリカは49%、中国は79%、インドは69%に達する。発電面で再生可能エネルギーの使用が進んでいると言われるドイツにおいてでさえ、石炭火力のウエートは46%に及ぶ。