就業中の喫煙禁止は社員を子ども扱いしている
今年9月、国内証券最大手の野村ホールディングスが「10月から就業時間中は全面禁煙とする」と発表し、大きなニュースになりました。イオンや味の素、カルビーといった企業でも「在宅勤務中の禁煙」を導入済みで、そうした大企業の動き自体がニュースになった形です。
これらはいわゆる「健康経営」の一環でしょう。社員の健康を思いやるだけでなく、「ESG」の取り組みとして投資家などにアピールする狙いもあるのだと思います。ただ、飲酒のように明らかに業務へ支障がでるものとは異なり、喫煙が業務に悪影響を与えるとは言えないでしょう。
宮崎駿監督のアニメーション映画『風立ちぬ』で、主人公の堀越二郎が仕事をしながらタバコを吸うシーンがあったように、かつては職場で仕事しながら喫煙する光景がよく見られました。仕事しながらコーヒーやお茶を飲むのと似た感覚です。
周囲が受動喫煙にさらされるなら問題ですが、同僚に影響の出ない在宅勤務中に、席を外さず仕事しながら喫煙するのなら、大きな問題があるとは思えません。そうなると、在宅勤務者への禁煙要請は、職場環境の整備や生産性の向上というよりは、喫煙者自身の健康への配慮が目的なのでしょう。
社員の健康を守る一方、終身雇用をやめる矛盾
喫煙による健康被害は本来社員個人が責任を負うべき問題です。健康を考えれば喫煙しないほうが良いはずですが、本人に吸いたいという意思があれば、法律で禁止されていない以上、会社が強制的にやめさせるわけにはいきません。
また、喫煙による健康被害で社員が寿命を縮めることを心配する一方で、経済界は終身雇用が難しいと宣言し、早期退職を募集して高齢社員を辞めさせようとするのは、矛盾した行為のようにも感じてしまいます。
会社が終身雇用を放棄するのであれば、喫煙する社員からすると、健康管理は個人に任せて、在宅勤務中の喫煙も自分に判断させてほしいという気持ちかもしれません。
会社としても、周囲に迷惑をかけない限り、喫煙判断は大人として本人に委ね、仕事でしっかり成果を出してもらえば良いように思います。
社員の意思や自律性を最小限に抑え込み、他律的に制御しようとする姿勢は、まるで社員を子ども扱いしているように見えてしまいます。