『現場は「生野菜」、本は「豪華な料理」と思え』
過去の事例研究はいわば冷めた加工食品
子供の頃から、極端に言えば勉強は嫌いでした。勉強することはあっても、好きな数学ばかり。入社以降も、ごく普通の目線で生活しているだけで、何か特別な勉強をしてきたわけではありません。
もちろん、本や新聞を読んで知識や情報を仕入れることは日常的に行っています。しかし、本や新聞から学ぶのは、きれいに調理された豪華な料理を食べるようなもの。加工されたものなので、面白いがあまり役立たないという思いが少なくありません。
また、加工されているから、その裏側にあるものを読み取ることも必要です。常にそれを意識しながら本や新聞と接するよう心がけています。
そういう私にとって、いちばん勉強になるのは、なんといっても、いろいろな人と会うことです。会社なら現場のエンジニアと会って話をする、生産ラインで商品の組み立て、加工をしている人たちと話し合う。オフィス、販売店……さまざまなところを一生懸命、見て回っています。現場で、いま起こっていること、やっていることについて話を聞きます。そこで瞬間的に感じ取れるものは、料理にたとえれば生野菜。本当に新鮮で、美味しいと感じることができます。
私は趣味で家庭菜園を楽しんでいますが、うちの畑では大根がまっすぐに育たない。みな枝分かれしてしまう。どうしてだろうと悩んでいたら、隣の畑のオジイサンが教えてくれました。
「最初に肥料を土に撒いてしまうと、大根が根を伸ばしていくときに肥料に出合うたびに枝分かれしてしまうんだよ」と。
現場で起こっていることは、栽培中の野菜と同じで一つ一つが生き物です。それについては、やはり現場の人がいちばんよく知っています。
エンジニアというのは、どんな技術で何ができるかと、いつもいろいろ考えているものです。私も複写機のデジタル化の中で何ができるかということを常に考えてきました。ただ、それは机の前に座って本を読みながらではありません。大事なのは自分で体験することです。