『迷路の「行き止まり」にこそ解はある』
知ることから始めないと戦えない
「大学での勉強など役に立たない」と、ホンダではよくいいます。私も先輩にそういわれました。前社長の吉野(浩行)さんなどは東大で講演したとき、「ホンダに入るには何を勉強すべきですか」と学生に質問されて、素直に「大学で習うことは役立たない」と答え、大学の先生に「呼ばなきゃよかった」と落胆されたという笑うに笑えない話もあります。
創業者本田宗一郎の時代から、「現場・現物・現実」の三現主義に徹してきたホンダでは、現場で仕事を通して学ぶことが求められます。私も早稲田大学理工学部から1969年に入社し、CVCCエンジン開発プロジェクトの一端を担って、その洗礼を受けました。
CVCCは当時、世界一厳しいとされた米マスキー法の排ガス規制を最初にクリアした画期的な低公害エンジンです。社長職にあった本田さんは毎日のように現場にやってきては問題点を見つけ、われわれに宿題を出していきました。「こんなの可能なのか」と思えるような難題です。次の日もやってきて解決できていないと、「まだやっているのか、バカ野郎」と怒鳴られる。毎日が必死でした。
現場で仕事に取り組むと壁にぶつかり、突破しようと貪欲に勉強する。重要なのはこの貪欲さが生まれる環境で、その極致が“修羅場体験”です。
想像を超える困難な状況の中で、自分で何とかしないとダイレクトに結果に表れる。誰も教えてくれない。失敗はしたくないが、失敗を恐れていたら何もできない。必要な情報や知識をどんどん吸収し、あらゆる力を一点に集中して突破する。そして、見事成功したときは達成感に浸る。こうした修羅場体験を経て、ひと皮も、ふた皮もむけて力をつける。
ところが、組織が大きくなると、自分は何もしなくても業績に影響しないような状況が各所に生まれがちです。大企業病が蔓延する。そうならないよう、社員をいかに修羅場に追い込んでいくか。