失敗を突き詰めれば価値ある失敗にできる
なぜ、修羅場体験が大切なのか。集中力で貪欲に学んでも成功は容易ではなく、失敗の連続です。問題はそれを“価値ある失敗”にできるかどうかです。
思い描く到達点に至るには数多くの経路があり、まるで迷路です。あるとき、行き止まりに直面する。絶対に到達点にたどり着けないなら、それは失敗で別の道を行かなければなりません。一方、本当は到達点へ続いているのにそこで諦めるなら、永遠に到達できない。
迷路の行き止まりに突き当たったら、本当に根本的な失敗なのか、それとも方向性は間違ってなくて、やり方に問題があるのか徹底的に解析する。そして、それ以上先へは絶対に進めないという確信が持てるまでは引き下がってはならない。ここまで突き詰めれば、失敗しても新しい方向性が浮かび上がり、価値ある失敗にできる。
人間は厳しい状況に置かれないと、これほど突き詰めて考えようとはしません。最悪なのは一度こっちへ行って、ダメならすぐ諦め、今度はあっちへ行こうとすること。永遠に到達できないでしょう。
われわれが手がけたレース用マシンの開発でも、4ストロークであらゆる可能性を解析し、これ以上は先に進めないと確信できたから2ストロークに全力投入し、タイトルをとることができた。4ストロークに挑戦している間、連敗でも本田さんは何も口出ししませんでした。意味合いがわかっていたのでしょう。
ただ、タイトルをとった翌年の84年、より新しいマシンで戦ってもなぜか結果が出ず、次の85年、巻き返しをねらってさらに新しいマシンを投入したのに初戦でヤマハに敗れたときは、ものすごく怒られました。相手と同じ条件の2ストロークで戦って、失敗を繰り返したからです。2度同じ失敗は許されない。それが修羅場の厳しさです。