菅政権の目玉政策のひとつは携帯料金の大幅値下げだ。9月にはNTTが携帯電話最大手のNTTドコモの完全子会社化を表明するなど、変化が起きつつある。経営評論家の山田明氏は「日本の電波行政は、固定電話の時代から惰性で手を加えることもなく続いてきた。今こそ抜本的に見直すべきだ」という――。
※本稿は、山田明『スマホ料金はなぜ高いのか』(新潮新書)の一部を再編集したものです。
「携帯料金は今より4割程度下げる余地がある」
2018年8月、菅氏は札幌での講演で、「携帯料金は今より4割程度下げる余地がある。競争が働いていない」と唐突に表明し、関係者を驚かせた。
普段、講演では原稿を読まない菅氏が、この時は手もとの資料を見ながら話したことから、内容は事前に総務省と擦り合わせていたことがうかがわれた。
講演で使用した電話料金の国際比較などのデータは内閣府が作成したもので、菅氏が周到に準備していたことが分かる。事実、その2日後には携帯料金について議論する総務省の審議会が開催されている。
この講演に先立つ6月、公正取引委員会が「携帯電話市場における競争政策上の課題について」と題する報告書を公表。携帯大手によるスマートフォン(以下スマホ)の販売・契約慣行を「独禁法上、問題の恐れがある」と指摘しており、「利用者を不当に囲い込む行為には独禁法を厳正に執行していく」と警告していた。
菅氏の講演は公取の報告内容とも整合し、綿密に計画されていたことが伝わってくる。
官僚の人事でも、手は打たれていた。7月の中央省庁人事で、携帯電話の関連政策を担当する総務省の総合通信基盤局長に、第1次安倍内閣で菅氏が総務相を務めた時の、同局の担当課長だった谷脇康彦氏を就任させていた(その後、総務審議官)。