綿密な計画……総務省とNTT人事で打たれた布石
谷脇氏は情報通信分野の競争政策では省内で右に出る者がないと言われる。情報通信に関わる深い見識を持ち、NTT再編成にも携わるなど幅広く実務経験を積んできた人物だ。
そしてもう一つ、人知れず布石が打たれていた。
NTTの社長人事である。
6月、NTT持株会社の鵜浦博夫社長は取締役として改選期を迎えていた。6年間の社長在任中、特に大きな失態もなく社長業務をこなしてきており、NTT社内のみならず業界関係者からも、鵜浦氏の取締役再任と会長就任を当然視されていた。
しかし、政府は再任を認めず、鵜浦氏は相談役に退いた。民間企業の役員人事に役所が介入することは通常ありえないが、NTTは政府に3分の1以上の株式保有を義務付けられた特殊法人であり、役員人事は政府の認可事項であることがNTT法で定められている。
人事・労務畑出身の鵜浦社長の再任が認められず、ともに技術畑出身の篠原弘道会長、澤田純社長というNTT発足以来、例のない変則的な役員人事となった。
ドコモは、寡占化が進むスマホ市場のリーダー的存在だ。しかし、ドコモの主要な意思決定がNTT持株会社を抜きに行われることはありえず、鵜浦氏の再任拒否は、料金の大幅値下げに向けた政府の強い意思表示とも受け止められる。
菅首相に立ちはだかる旧態依然の電波行政
かつて小泉政権下の2005年に竹中平蔵総務相の下で総務副大臣になり、情報通信行政について知識と経験を積んだ菅氏は、2006年9月に第1次安倍内閣が誕生すると総務大臣に昇格。第2次安倍政権発足以降は長く官房長官を務め、首相官邸に強固な足場を築いてきた。
各省庁の審議官クラス以上の人事を内閣人事局が一元的に実施する方式に改め、「省あって国なし」と言われた政府を内閣官房一極集中型に変えることにも成功した。
その菅氏は今、総理として内閣をまとめ、日本の情報通信の変革に取り組もうとしている。
しかし、そこには大きな関門がある。先進国の中で日本だけが採用していない電波の「オ-クション方式」に象徴される、旧態依然の電波行政だ。どういうことか、以下に説明しよう。
先進国では日本だけ……電波資源の「美人コンテスト」
国の公共財である電波資源を管理する総務省が、電波帯域を民間事業者に割当てる方式として採用してきたのが、俗に「美人コンテスト」と呼ばれる「比較審査方式」だ。
この方式では、総務省が割り当てを予定する電波について、希望する事業者が電波の使用計画や基地局整備計画などを提案することからスタートする。