時代の変化とともに需要が減り、歴史に幕を下ろす老舗の温泉旅館が後を絶たない。そんななか、山形の小さな宿を売り上げ40億円超の温泉旅館グループに育てた女将たちの奮闘記を紹介する。
温泉の湯と湯桶
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山形新幹線かみのやま温泉駅から車で5分ほどのところに、「日本の宿 古窯こよう」がある。

美空ひばり、石原裕次郎、高峰秀子、斎藤茂太、瀬戸内寂聴と錚々たるスターや文化人に愛された宿だ。

奈良時代の窯跡が敷地内から見つかったことから、「古窯」と名がついた。皿に絵付けをすると、窯で焼いてくれる「らくやき」サービスをしており、館内には300枚以上もの著名人の「らくやき」が展示されている。

8階の「展望大浴場」の大きなガラス越しからは壮大な蔵王連峰が見渡せる。湯船に注がれる温泉は硫酸塩泉で、湯上がりは肌が柔らかくなる。名物は山形牛のステーキにすき焼き、古窯開運ビーフシチュー。

NHK朝ドラのモデルになった大女将

旅館は地域のショールームだ。外から来たお客に、郷土料理をはじめ、地域の歴史と文化を体感させる唯一無二の場で、地域の顔の役割を担う。

その大切な役割を果たす旅館は、ファミリービジネスが大半を占めるが、継いでいく難しさも特殊だ。

1泊2食付きの宿泊料金を上げる機会が少なく、収益が向上しにくい。さらに旅館とは装置産業のため、時代に合わせた施設改修が必要で、かかる費用も大きく、借金も増える。経営に苦慮しない旅館を見たことがないし、経営者たる親は「子に継がせてもいいものか」と、必ず悩む。

実質的には夫妻で一緒に継ぐのも温泉旅館の特徴だ。夫が俯瞰した視点で経営の方向性を定め、妻(女将)のもてなしで、宿の人気を高める。この両輪で成り立つパターンが多い。

女の将軍と書く、女将――。

旅館の現場では女将が陣頭に立ち、スタッフを束ねる。お客へ細やかな配慮をし、掃除が行き届いているか、花は美しく活けてあるかなど、宿の隅々にまで目を配る。こうした女将の采配で旅館は成り立っており、女性の気働きと知恵がものをいう商売なのである。世界でも類を見ない、日本独自の旅館文化は女将が守っているといってもいい。