マスコミと総務省の一致した利害

総務省と放送・新聞などマスメディアの間には通信業界とは異なる関係があり、世の中にはほとんど知られていない。

話は2011年に遡る。当時、地上デジタル放送の開始に伴い、余ることになった電波、それまでアナログ放送で使用していたVHF帯と呼ばれる電波の割り当てが行われた。

この帯域は普通の携帯端末が使えず、特に送信ができないので、携帯電話による通信ではなく携帯端末向けの「マルチメディア放送」を行うことになった。総務省は参加する可能性のある企業を一本化しようとし、これに応じたのがドコモと民放連のグループだった。

ところが2016年6月、この企業(NOTTV)は累損約▲1000億円を計上し、わずか4年で破綻、サービス廃止に追い込まれた。廃止時の契約数は約150万台で、総務省に提出した計画のわずか3%だった。

新聞やテレビなどマスメディアでは箝口かんこう令が敷かれたようで、このNOTTV破綻はまったくと言っていいほど報じられなかった。

NTTやドコモは高収益企業のランキングでも常に上位に顔を出す。それはマスコミにとっては新聞広告やテレビ広告の大スポンサーでもあることを意味する。その機嫌を損ねることは、彼らが毎年支払う数十億~数百億円の広告宣伝費を失うことにつながる。

放送事業を左右する電波の割当て権限を持つ総務省の機嫌を損ねれば、恣意的電波行政を通じてテレビ局の首を絞められることにつながりかねない。NOTTVの件が示すように、テレビ局が日本のテレビ業界への新規参入を恐れていることはよく知られており、総務省に競争を促進する電波配分に動かれてしまうことはタブーなのだ。

固定電話の時代からの惰性、いまこそ見直しを

2017年度には携帯電話の契約数は固定の8倍以上になり、完全に携帯中心の時代になっている。電波は有線の通信を補完するインフラから主役に変わったというのに、制度が対応していないのが現在の通信政策だ。

山田明『スマホ料金はなぜ高いのか』(新潮新書)
山田明『スマホ料金はなぜ高いのか』(新潮新書)

米国に限らず欧州や中国でも、通信政策の中心は明らかに「電波を開放する」ことにある。

一方、今も携帯を固定の補完的役割として捉える日本の通信政策では、電波の開放目標もなく、浪費されている電波を活かすための政策が検討されているのかもよく分からない。

世界で5G商用サービスがスタートした2019年、日本で5G用として携帯会社に割り当てられた高周波帯域の電波は、半径100m程度しかカバーできないためプラチナバンドの電波に比べて比較にならないほど膨大な数の基地局を設置しなければならず、携帯会社にとって使い勝手が悪い。

固定電話の時代から惰性で手を加えることもなく継続している日本の電波政策は、根底から考え直す時期に来ている。

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