五代目瀬川と蔦重のその後
幕府による盲人保護策を逆手にとった法外な高利貸し(座頭貸し)が摘発され、捕らえられた鳥山検校(市原隼人)。この男に身請けされ妻になっていた五代目瀬川(小芝風花)も連行されたが、追って釈放され、花魁時代に所属していた吉原の妓楼、松葉屋の預かりになった。NHK大河ドラマ「べらぼう」第14回「蔦重瀬川夫婦道中」(4月6日放送)。
吉原の五十間道にあらたに店を借り、年明け、すなわち安永8年(1779)正月から本屋を開くことになっていた蔦重こと蔦屋重三郎(横浜流星)は、「できれば店、一緒にやってもらえねえかと思って」と瀬川を誘う。
そのときは、検校の妻なので不可能な話にしか思えなかった瀬川だが、行所の白洲で検校との離縁を言い渡された。瀬川の面倒を見ることは遠慮したいと、検校から申し出があったという。瀬川はそれを、蔦重への思いが消えない自分への検校のやさしさと受けとり、礼をいった。
ともかく、こうして瀬川が自由の身になったことで蔦重は大よろこびし、彼女と所帯をもって本屋を一緒に切り盛りする準備に奔走。2人で楽しそうに、あたらしい本のアイデアを出し合った。
ところが、年が明けると瀬川は手紙を残して姿を消していた。
この点だけは史実と大きく異なっていた
瀬川は2つの理由から蔦重を慮って、みずから姿を消したのだった。
一つは、鳥山検校が多くの人から恨まれる存在で、その妻となった自分もまた、同様に恨まれていると認識したからだった。瀬川が一時的に身を置いていた松葉屋の寮に、堕胎して体調を崩した松崎(新井美羽)という若い女郎が運び込まれ、瀬川は身の回りの世話をしていたが、ある日、包丁で瀬川を襲ったのだ。座頭金に苦しめられて自殺した両親への恨みを晴らそうとした、とのことだった。
もう一つは、大文字屋(伊藤淳史)が神田に屋敷を買うべく、手付金まで払ったのに、取引が一方的に取り消され、それを奉行所に訴え出ると藪蛇なことに、吉原の人たちは「四民の外」、すなわち士農工商の下だと判定されてしまったこと。これから本屋として羽ばたこうとしている蔦重にとって、吉原の代名詞のような自分が足かせになってはいけないと考えたのだった。
別れの手紙をしたためながらあふれ出る瀬川の涙に、涙を誘われた視聴者も多いのではないだろうか。
ここまで小芝風花の迫真の演技で、強い存在感を放ってきた瀬川。吉原という場所をさまざまに象徴するように描かれてきた彼女の登場がここまでかと思うと、瀬川ロスに陥りそうな気にさえさせられる。
ただ、ここまで「べらぼう」で描写されてきた瀬川像には、ひとつだけ大きく史実と異なる点があった。