NHK大河ドラマの主人公・蔦屋重三郎と吉原の花魁・五代目瀬川はどんな関係だったのか。歴史評論家の香原斗志さんは「吉原で働く男性と女郎の禁断の関係は珍しくなかった。ふたりが親密関係にあっても不思議ではない」という――。
2019年オスカープロモーション晴れ着撮影会で着物姿を披露する小芝風花さん=2018年12月4日、東京都港区の明治記念館
写真=時事通信フォト
2019年オスカープロモーション晴れ着撮影会で着物姿を披露する小芝風花さん=2018年12月4日、東京都港区の明治記念館

NHK大河の「小芝風花の魂の演技」をあなたは見たか

五代目瀬川(小芝風花)を1400両(1億4000万円程度)で身請けした盲目の富豪、鳥山検校(市原隼人)は、彼女の心が吉原にあって自分にはないと疑いはじめた。そして、吉原の人たちへの親しみと検校への親しみは別のものだ、と説明する瀬川(瀬以と呼ばれている)に「どこまで行こうと女郎と客、ということだな?」と突き放すように言った。NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」の第13回「お江戸揺るがす座頭金」(3月30日放送)。

その後、検校は瀬川を屋敷の離れに閉じ込め、従者に彼女の部屋を調べさせると、蔦重がつくった本が出てきたので、検校は瀬川の心が蔦重にあると確信する。そして瀬川に、蔦重との不義密通の疑いをぶつけ、瀬川が否定しても聞き入れず、「いくら金を積まれても心は売らぬ。そういうことであろう?」と問うた。

そこまでいわれて瀬川は腹をくくり、かつて使っていた廓言葉で表明した。「蔦重はわっちにとって光でありんした。重三を斬ろうがわっちを斬ろうが、その過去を変えることはできんせん」。

そのうえで、蔦重への思いが消えればいいと願っていると伝え、検校の刀を手にとって自分の胸に当て、「信じられぬというならどうぞ。ほんにわっちの心の臓を奪っていきなんし」と、毅然と言い放った。

小芝風花の魂がこもった演技に、しびれた視聴者も多いのではないだろうか。

蔦重と瀬川の本当の関係

そして、4月6日放送の第14回はタイトルも「蔦重瀬川夫婦道中」。次回予告では、蔦重と瀬川が抱き合う場面が流れた。「夫」の鳥山検校が悪質な座頭金、すなわち目が不自由な人に対する幕府の保護策を逆手にとった高利貸しで摘発され、蔦重と瀬川のあいだにあらたな展開が繰り広げられそうだ。

ここまで蔦重と瀬川は、幼じみであるだけでなく、ともに男女として思い合っている関係として描かれてきた。第9回「玉菊燈籠恋の地獄」(3月2日放送)では、瀬川が鳥山検校に身請けされそうだと耳にした蔦重は、「俺がお前を幸せにしてえの。だから、行かねえでください」と瀬川に告白している。

それは瀬川が待ち望んでいた言葉だった。2人は将来を誓い合い、瀬川の年季が明けるまで待つのが困難だと認識してからは、蔦重は足抜け、すなわち瀬川を吉原から逃がす計画まで立てた。

さて、「べらぼう」で描かれる蔦重と瀬川の純愛関係は、はたしてどこからどこまでが史実で、どこからどこまでがフィクションなのだろうか。

清水晴風[編]『あづまの花 江戸繪部類』
清水晴風[編]『あづまの花 江戸繪部類』(画像=国立国会図書館デジタルコレクション