米紙ニューヨーク・タイムズが、米トランプ大統領の“脱税疑惑”をスクープした。2016年に払った所得税は750ドル(約8万円)だったという。不動産王のトランプ氏がなぜ少額で済むのか。『国家・企業・通貨――グローバリズムの不都合な未来』(新潮選書)を出した早稲田大学教授の岩村充氏は「グローバル化の恩恵を受けた高所得層や企業経営者たちにはさまざまな節税策がある。そのしわ寄せは中間層に集中している」という――。
※本稿は、岩村充『国家・企業・通貨――グローバリズムの不都合な未来』(新潮選書)の一部を再編集したものです。
深刻化する富裕層の「税金逃れ」
ニューヨーク・タイムズ紙が、トランプ大統領の脱税疑惑をスクープし、全米で大きな反響を呼んでいます。
同紙報道によれば、トランプ氏は大統領就任前の18年のうち11年間も所得税を納めず、2016年、17年の納税がわずか760ドル(8万円弱)でした。大統領は緊急会見で「フェイクニュース」と反論しましたが、この疑惑が11月の大統領選に重大な影響を与えるのは必至の情勢です。
いま世界中で、富裕層の「税金逃れ」が大きな問題になっています。そして、そのしわ寄せとして税負担が中間層に集中し、国家の運営自体が危うくなっているのです。
法人税引き下げ競争
現代のグローバリズムの特色は、モノが国境を越えて行き来するだけでなく、企業や資本も国境を越えて自由に行き来するところにあります。そして、グローバル化の進展は、企業と国家との力関係を根底から変えることにつながりました。
かつては、国家と企業の力関係は、国家が常に優位にあり、企業や富裕層は国家による監視と保護の対象でした。しかし、企業や富裕層が自身の活動地を自由に選べるようになると事情は変わります。国家たちは、多くの企業や富裕層を自国に呼び込もうと法制を工夫し、税率を引き下げる競争、いわゆる「底辺への競争」を始めざるを得なくなったのです。