>>倉重英樹さんからのアドバイス

多くの人が管理職に昇進する年代である。そういう人に私は言いたい。

「管理職ではなく、リーダーになろう」と。上から命じられてなるのが管理職、下から担ぎ上げられてなるのがリーダーである。実績がなく、上司の覚えがめでたいヒラメ社員でもなれるのが前者であり、下からの人望や期待、目に見える実績がなければなれないのが後者である。自分の夢や目標を語る、オープンで有言実行タイプがリーダーに適任だ。

管理職が不要になりつつあるのは時代の要請でもある。昔の階層型組織は、上から下される命令が絶対で、その枠からはみ出ないように部下を管理するのが上司の役割だった。ところが職場にコンピュータが入ったことで、人が人を管理する必要性が急減した。部下が成果を出せる環境をいかにつくるかのほうが重要になったのだ。組織が階層型からネットワーク型へ移行するのに伴い、管理職からリーダーへの転換は必然なのである。

リーダーになると、ときにはメンバーを叱らなくてはならない場面も出てくるが、最近部下を叱れない上司が増えたと聞く。そういう人は「感情を爆発させて怒ること=叱ること」と勘違いしていないか。叱るとは指導であり教育だ。だからこそ、そのための技術がいる。

私が叱るのは次の2つの場合だ。ひとつは遅刻が続くなど、社会規範から逸脱した行動をしたときである。一度目でガツンと言うか、二度、三度続いてからやるかは、ときと場合、そして相手に応じて使い分ける。

もうひとつは仕事内容が稚拙な場合だ。これは叱りつつ教えるという、本人の成長に結びつけるやり方を取る必要がある。答えをすべて教えると自分の頭で考えなくなってしまうため、10のうち3、4くらいは教え、後は考えさせることが多い。

何も声を荒らげるのが叱ることではない。しばらく何も言わないのも立派な叱り方だ。どうすればいいのか。

部下が失敗をしてしまった瞬間には何も言わない。1週間ほど経って、「あのとき、こうしていればよかったね」とさりげなく指摘する。これは利く。失敗を受け入れ、十分反省して立ち直ろうという瞬間に、ぐさっとやるのだ。落ち込んでいる最中なら、「わかっているよ!」と怒鳴りたくもなるが、そのタイミングでは反発できず、「おっしゃる通りです」と自然に頭が下がってしまう。叱るというより、同じ失敗を繰り返さないために指針を与えるのだ。

この年代は自分自身のことで言えば、まさに人生最大のターニングポイントだった。日本IBMにいた41歳のとき、部下600人を束ねる部門の本部長になった。年齢からすればかなり早い出世であり、かねてからなりたいと思っていたポジションだっただけに、「自分はできるんだ」と得意にもなった。

しかし、その喜びは2日間しか続かず、逆に「自分はたまたまIBMにいたからここまで出世できたが、他社でも営業本部長になれるわけではない。IBMでしか通用しない人間なのではないか」と不安になってしまったのだ。さあ悩んだ。残された時間を使い、どこにいっても通用する人間になるにはどうしたらいいかと必死で考えた。

出た結論が「将来プロの経営者を目指そう」ということだった。そこから猛勉強が始まったのだ。幸い、その後いくつかの企業の経営者になることができたが、あのときの決断がなければいまの私はなかった。

社会に出て20年が経ち、私のようなキャリアのターニングポイントがやってくるかもしれないのがこの年代である。備えあれば憂いなしである。