>>倉重英樹さんからのアドバイス
「30代は味方をひとりでも多くつくれ」と先ほど述べた。40代も後半になると、味方をつくるより敵をつくらないようにしたほうがいい。敵が多いと、できるはずのこともできなくなる。醜い足の引っ張り合いに巻き込まれてしまう。
敵をつくらないようにするには、味方をつくらないことだ。優秀で気が合う部下がいたとする。「かわいいやつだ」と思って目をかけると、見えない敵を3人つくっていると思ったほうがいい。味方を3人つくると敵が9人できる計算だから怖い。
30代までに味方をたくさんつくっておけば、あとは敵も味方もつくらず、同じ距離感で公平に付き合うことを心がけるべきだろう。人間の好き嫌いをいかに殺していくかが40代後半からの課題である。私がこのことに気づいたのは50代になってからで、10年遅かったと思っている。
さらに、敵を味方に変える方法もある。会社でお互いが「合わないな」と思ったら、上司は部下を教育しようとし、部下は逆にその上司から離れようとする。私に言わせれば、お互いのその姿勢が駄目なのだ。まずこう考えてほしい。
「時(とき)」というものがある。これは人間のコントロールが及ばないものである。一方で、時と時の間の「時間」がある。1時と2時の1時間で仕事をしよう、という具合にコントロールできるのだ。
「空」もそうだ。人間の支配が決して及ばないものだが、ある場所とある場所を区切る「空間」になったら可能になる。家を建てることも鉄道を敷くこともできる。
人間も同じだ。「人」は変えられないかもしれないが、上司と部下、あなたと同僚のAさんの「間」は変えることができる。人間関係の片方の当事者が自分だからだ。自分が変われば部下との関係も変わる。私はこのことをリーダーのポジションにある人によく説いてきた。
この年代になると、早い人では経営トップの立場になる人もいる。そういう人には、「何千人もいるあなたの部下は本当に部下ですか」と聞きたい。現在、私は社長を務めているが、いつもこう思っている。売り上げを稼いでいるのは社員であって、自分はその社員に養ってもらっている「最大の扶養家族だ」と。
社員には「たとえば株主を背負ったときリーダーは私だが、お客様を背負った場合は君らがリーダーだ。だから、そういう場面では私をうまく使ってくれ」と話している。社長や部長というのは地位ではなく単なる役割なのだ。
従来の階層型組織では絶対的なリーダーが必ずひとり存在したが、これからのネットワーク型組織では目的やプロジェクトに応じて人が集まり、その中からリーダーが選ばれる。リーダーという固定的な役割があるわけではない。能力によって役割が決まる。
社員が楽しくハッピーに仕事ができなかったら、お客様を楽しくできるはずがない。上司の仕事の大半が部下をハッピーにさせることにあると思ったほうがいい。それは先に述べた「階層型組織の中で自分のキャリアを考えないこと」に等しいのである。