右肩上がりは昔の話、現状維持にも努力が必要な時代だ。自身でキャリアをつくってきた2人の経営者が、「求められる人材」になるための秘訣を伝授する。
>>倉重英樹さんからのアドバイス
私が就職したのは40年以上も前だが、当時は平社員→主任→係長→課長→次長→部長……という、かなり強固な組織の階段があった。「階段を上ること=キャリアアップ」だと皆が信じていた。しかし、いまはこれが幻想にすぎないとわかっている。経済が右肩上がりで成長し、若者の人口のほうが年寄りよりも多い、という前提が覆されたからだ。
組織内での出世モデルが破綻したいまは、逆に市場や世間が認めてくれる価値のほうが重要である。会社は外で認められている人を絶対に粗末にしない。私は社員に「自分のポジションは会社の中ではなく社会で探せ」といつも説いている。
世間で認められるとまずヘッドハンターから声がかかる。あるいは講演や執筆の依頼が舞い込む。問題はどうしたらそういう力を身につけることができるかだ。
秘策を教えよう。1年間を時間で表すと8760時間である。このうち、1日6時間の睡眠を除くと6570時間となる。その1割は657時間。この年間500~600時間をいかに使うかで、あなたのキャリアが大きく変わってくるのだ。10年間、目的を持ち計画的に活用すれば合計5000時間になる。私はこれを「投資の時間」と名づけ、そのほかを「経費の時間」と峻別している。後者は誰かが伝票を切るとなくなっていく。誰かとは、お客様、上司、同僚、場合によっては家族、友人を入れてもいい。
年間500時間強をどう使うか。3つある。勉強すること、ネットワークを広げること、趣味を深めることである。若いときほどこの順に優先順位をつけたほうがいいが、50代になると引退後の生活も視野に入れなければならず、趣味の比重を高めるべきだ。
ネットワークはどの年代でも大切だ。私ぐらいの年齢になると、人生の豊かさはネットワークのそれに比例するとつくづく思う。ネットワークは3つの「幅」を考えてほしい。まずは年齢である。自分が付き合う人で、一番若い人と一番年長の人の年齢幅が40歳ほどあるといい。それほど違うと価値観や情報源が違うため、学ぶことが多い。
2つ目は職業だ。サラリーマンばかりではなく、クリーニング店、寿司屋、音楽家、学校の先生など、いろいろな職業の人をネットワークに加えよう。「仕事が違うとこんなにものの見方が違うのか」と驚くことがよくある。
3つ目が文化だ。日本人だけではなく、あらゆる国の人と付き合えるのが理想である。ネットワークづくりには体力も必須だ。体も鍛えておくことだ。