今年4月に島津製作所が発売したPCR検査の試薬キットが好調だ。同社は1997年からPCR検査の試薬キットを販売しており、長年の苦労が実を結んだ。ジャーナリストで僧侶の鵜飼秀徳氏は「もとは西本願寺出入りの仏具店。その後、業種・業態を転換させ、最先端テクノロジー企業になった。その歴史からは京都の老舗企業らしい『独創と忍耐』の姿が読み取れる」という――。
4月20日に発売した「新型コロナウイルス検出試薬キット」。島津製作所HPより
4月20日に発売した「新型コロナウイルス検出試薬キット」。島津製作所HPより

「検査時間を大幅短縮」島津製作所のPCR検査の試薬キットが好調

今年4月に島津製作所が発売したPCR検査の試薬キットが好調だ。通常は検査に3時間以上かかるが、この試薬キットなら検査を1時間程度に短縮できる。当初は月間10万検体分の生産を予定していたが、需要が急増したこともあり、この9月以降は月間30万検体分を生産するという。

この秋からは京都産業大学と協定を結び、学内に「PCR検査センター」を設置する。学内クラスターの発生防止と対面授業の再開に寄与する試みとして期待されている。

島津製作所がPCR検査の試薬キットを発売したのは、23年前の1997年のことだった。一時的に販売が伸びることはあっても、ほとんど儲からない事業だった。しかし根強く開発を続けていたことで、日の目を見ることになった。そこからは、創業者の魂が息づく、京都の老舗企業らしい「独創と忍耐」の姿が読み取れる。

「社会の混乱を逆手にとってビジネスチャンスに」

これは島津製作所のアイデンティティーとも言えるものだ。同社が時流を敏感につかみ、場合によっては業態を変え、新しい価値を創造してきたのは今に始まったことではない。それは創業時に遡るとよく理解できるのだ。

島津発祥の地
写真提供=鵜飼秀徳
島津発祥の地

元は西本願寺出入りの仏具店だったが、今や先端テクノロジー企業

島津製作所ほど業種・業態を転換させている企業は稀有だ。同社は1875(明治8)年創業、国内屈指の老舗企業である。2025(令和7)年に創業150周年を迎える。

田中耕一さんが43歳の若さでノーベル賞化学賞を受賞(写真提供=島津製作所)
田中耕一さんが43歳の若さでノーベル賞化学賞を受賞(写真提供=島津製作所)

島津製作所は2002(平成14)年、現エグゼクティブ・リサーチフェローの田中耕一さんが43歳の若さでノーベル賞化学賞を受賞したことで一躍、世界に知られることになった。医用機器や分析計測機器などが主たる製品の最先端テクノロジーの企業だ。その実、島津の源流は西本願寺出入りの仏具店だった。ちなみに薩摩藩の島津家とは姻戚関係はない。

創業者は島津源蔵(初代源蔵)と梅治郎(二代源蔵)父子。初代源蔵は幕末、具足ぐそくの製造を専門にする仏具店に生まれた。具足は「甲冑」の意味もあるが、仏教界においては、主に寺院の本堂内陣に置かれる香炉、花生け、燭台、高坏、仏飯器など鋳物でできた仏具のことである。