食パン1枚しか焼けないのに3万円もするトースターが売れている。神戸大学大学院の栗木契教授は「三菱電機は『ブレッドオーブン』を開発するうえで、これまでのトースターとはまったく違う商品を目指した。これは典型的なブルー・オーシャン戦略だ」という——。

好調な販売が続く3万円のオーブントースター

3000円前後が売れ筋というオーブントースターの市場にあって、3万円もする高価格のトースターが売れている。しかも一度に食パン1枚しか焼けないという異例の商品だ。

2019年4月に発売された三菱電機の「ブレッドオーブン」は、発売前の予約だけで初回生産予定台数の2倍の受註を受けたという。その後も、生産すればすぐに売れてしまい、発売後1年以上が経過した現在も、巣ごもり消費のなか品薄状態が続いている。ブレッドオーブンは現在のところ生産量にかぎりがあるため、ネット通販のみで販売しており、家電量販店などでは目にすることができない。

きっかけは社内提案会、開発のリーダーは炊飯器出身

ブレッドオーブンの開発は2016年に始まった。きっかけは、埼玉県深谷市にある家事家電の開発・製造をになう三菱電機ホーム機器(株)で定期的に開催されていた社内提案会だった。その席で若手技術者が、外付けCD読み込みドライブのような形状のトースターで、パンをスピーディに焼くというアイデアを出した。この「スピードトースター」の形状は、早くトーストすることの他にも、省スペース、おいしく焼くといった便益の向上にも使えそうだった。

ブレッドオーブンの開発メンバー、左から開発課長の吉川、開発部長の岩原、商品企画の八百幸、青木の各氏
写真提供=三菱電機
ブレッドオーブンの開発メンバー、左から開発課長の吉川、開発部長の岩原、商品企画の八百幸、青木の各氏

すぐに4名からなる開発チームがつくられた(写真)。リーダーとなったのは炊飯器の開発リーダーであった吉川秀樹氏である。吉川氏は炊飯器の開発者としてのキャリアを重ねていたが、トースターの開発にかかわったことはなかった。

新型トースターの開発リーダーを、炊飯器の開発者が務める。この人選は、既存のトースターとは違う考え方で開発を進めるべきという工場幹部の判断だった。この新しいトースターの形状では、これまでのトースターとは異なり、炊飯器に使われるような温度センサーによる食品温度検知、密封・断熱、火力制御といった技術が求められる。そこでこれらの技術に詳しい炊飯器の開発リーダーに白羽の矢が立ったのである。