新型コロナウイルスの感染拡大が企業経営にダメージを与えている。こうした危機への対応は歴史に学ぶべきだ。トヨタ自動車は2008年のリーマンショックのとき60年ぶりの営業赤字に転落した。しかし当時会長だった張富士夫氏は「需要の減少は絶好のチャンス」と言い切った。神戸大学大学院の栗木契教授が、その真意を読み解く――。
記者会見をするトヨタ自動車の豊田章男社長、内山田竹志副会長、張富士夫会長(左から、肩書きはいずれも当時)
写真=AFP/時事通信フォト
記者会見をするトヨタ自動車の豊田章男社長、内山田竹志副会長、張富士夫会長(左から、肩書きはいずれも当時)=2013年3月6日、東京都江東区

オリンピックイヤーが一転パンデミックの年に

新型コロナウイルスが世界経済を揺るがしている。このような危機に日本企業の先人はどのように対応してきたか。目先の対策に終始せず、時間の幅を少し広げて考えると、危機のなかにおいてするべきことが見えてくる。今回、そうした観点からトヨタ自動車をケーススタディーとして取り上げたい。

年の初めに皆さんは、2020(令和2)年という年を、どう予想しただろうか。夏には東京オリンピックが行われ、数多くの外国人が訪れる華やかな一年となるとみていた人も多いのではないか。

だが、この予想はほどなくして暗転する。国内外で中国武漢発の新型コロナウイルス感染症拡大の影響が社会、そして経済へと果てしなく広がっていく。国内外の人の動きが止まり、観光などの人の交流に関わる産業をはじめ、あらゆる産業に縮小の影が忍び寄っている。にもかかわらず、この感染症のグローバルな終息の見通しは、現時点ではたっていない。