危機のなかで組織をいかに動かすか
コロナ禍のなかで忘年会も、新年会も諦めることになり、寂しい思いをしておられる方も少なくないだろう。しかし2020年は憂さを晴らして、忘れ去ってはいけない1年である。今は、重たくも貴重な1年の経験を振り返ってみるよい機会だ。
2020年は、危機のもとで組織をいかに動かすかが問われる年となった。分野や領域によってコロナ禍の影響は異なる。しかし、同じ産業のなかでも、コロナ禍のもとで健全な動きを保てたか否かの明暗が分かれるケースは少なくない。各種の経営のリーダーたちはどのように組織を動かしていたか。予断を許さない2021年に向けて、今振り返っておくべき課題である。
経営とは、組織や市場のコンテクストを踏まえた対策を選択する必要性の高い問題である。しかし、共通の課題のもとでは、地域の病院とグローバル自動車メーカーのような異業種での共通の行動原理が有効となることもある。今回は、相互依存性の高い組織の危機対応という問題について事例を振り返ろう。
なぜ権限委譲が必要なのか
各種の危機のもとでの経営行動は、不確実性のなかで機会をたぐり寄せようとする懸命の活動となる。新型コロナウイルスなどの未知の課題への経営対応においては情報収集が大切だが、完全な情報が整うことを待っていては行動に出遅れる。
では、そこでの適切な組織行動とは、どのようなものか。経営学のテキストには、変化が激しく不確実性の高い環境では、権限の委譲が適していると書かれている。
スタッフや拠点数の少ないうちは、トップの目が組織の隅々にまで行き届く。しかし組織が大きくなると、そうはいかない。予断を許さず、各所の状況が刻々と変化していく危機のなかでは、トップがいかに優秀であっても、一つひとつの判断をすべてトップが行っていては、意志決定の渋滞が起こる。だから権限を委譲する対応が求められる。