千石の自社ブランド「アラジン」のトースターが売れている。最新機種は1台2万円超と高額だが、この1年で44万台の大ヒットとなった。千石は主に「下請け」として、他社ブランドのOEMを手がけてきた。それがなぜ自社ブランドで成功できたのか――。
千石の自社ブランド「アラジン」の4枚焼きトースター。短時間で一気においしく焼き上げるグラファイトヒーターという技術と、アラジン・ブランドの歴史を踏まえたレトロなデザインで新しい市場を築いた。
写真提供=千石
千石の自社ブランド「アラジン」の4枚焼きトースター。短時間で一気においしく焼き上げるグラファイトヒーターという技術と、アラジン・ブランドの歴史を踏まえたレトロなデザインで新しい市場を築いた。

モノづくりの力と付加価値が比例しない時代

優れたモノづくりの能力が、小さな付加価値しか生み出さない。今の日本の産業に広がる経営課題のひとつである。モノづくりに長けた企業が、ブランド経営の能力を高めることは、そのためのひとつの解となる。兵庫県加西市に拠点を置くOEM(納入先商標による受託製造)企業の「千石せんごく」が、この可能性をとらえつつある。

千石の自社ブランド、「アラジン」のグラファイト・トースターの販売が伸びている。トーストを一度に4枚焼ける最新機種で2万2000円という高級調理家電なのだが、この1年ほどの期間に44万台を販売したという。コロナ禍による巣ごもり消費の追い風もあるが、2015年の発売以降、アラジン・トースターの販売は年々順調に拡大。OEMだけでは縮小しかねなかった千石の売り上げを支えている。

アラジン・トースターの躍進を支えたのは、どのような経営上のリソースだったか。

輸出大国日本を支えてきたOEM企業

日本のモノづくりは、20世紀後半にひとつの最盛期を迎える。この時期には、国内外の有名ブランドから製造委託を受けるOEM企業が全国各地にあり、輸出大国日本を支えていた。アパレルや眼鏡、電子機器や建機など、幅広い日本の産業がOEMという事業形態で潤っていた。

家電分野においても同様であり、各地でOEM企業が低価格かつ高品質な製品を、国内のみならず海外に向けても生産していた。しかし、21世紀に入るころからは為替レートや人件費の上昇などから、日本国内でのモノづくりはコスト面で不利になる。世界の工場としての日本の地位は低下していく。

経営とは、変化の絶えない環境の下での組織の舵取りである。日本という国におけるモノづくりは、ひとつのピークは過ぎたのかもしれない。しかし日本の製造企業が、死を迎えたわけではない。組織の舵を切り直し、より付加価値の高い家電製品の製造販売に乗り出し、着実に前進を続けているOEM企業もある。