イノベーションには「起業家精神」が不可欠だ。だが組織の中では、起業家的な行動の芽が摘まれてしまうことも少なくない。神戸大学大学院の栗木契教授は「中間マネジメント層に意識改革を求めるだけでは、状況の大きな改善は望めない。組織全体での取り組みが必要だ」と指摘する——。
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コロナ禍という災いを福に転じるために

市場はコロナ禍のもとでも、そのダイナミズムをいかんなく発揮している。繰り返されるコロナの波を受けて市場の各所で大きく需要が縮小している一方で、新たな機会も広がっている。たとえば在宅ワークや巣ごもり消費を支える市場は拡大傾向にある。

市場とは、製品やサービスの供給者とその使用者の交換にかかわる社会的な場である。コロナ禍は市場のダイナミズムを高め、起業家(entrepreneur)が活躍できる領域を新たに広げている。

コロナ禍という災いを福に転じていくために、企業はどう動けばよいか。新たに広がる市場の機会を迅速にとらえるために、組織における起業家精神を活性化する手立てを整える必要がある。

日本企業にイノベーションが生まれにくいのはなぜか

ここで気になるのが、コロナ禍以前より日本では、起業家精神の衰退が指摘されていたことである。起業家精神は、市場のダイナミズムを受け止め、社会や企業のイノベーションを活性化するうえで重要である。ところが日本では個人起業家のみならず、企業においても、画期的な製品やサービスをリリースして世界をリードする動きが細っていることが指摘されてきた。

この10年を超える期間において、デジタル化が進む市場に大きな機会が広がっていたのに、自社内から目覚ましいイノベーションが生まれなかったのは、なぜか。この反省を踏まえて、日本企業はコロナ禍のネガをポジに変える起業家的行動を組織内の各所で活性化していかなければならない。以下では、そのために企業が取り組むべき課題を、アスクルを事例に検討する。