「この事業が目指すべき成功とは何なのか」

アスクルは、当初の目標であったプラス製品の販売網の拡充を、企業グループ全体としての成長という目標に切り替えたことで、事業機会をつかむ。現在のアスクルの売り上げは4000億円を超える。アスクルがプラス製品の通販という当初の役割に徹していれば、現在に至る大きな成長は生まれなかったはずである。

このような事業の目標の切り替えには軋轢あつれきが伴う。各事業部門にはその時々において定められた目標がある。プラスの文具のマーケティングにかかわる各部門や担当者は、他社との競争に日々しのぎを削っている。「他社の競合製品も扱うとは、いったいどういうことか」とねじ込んでくるかもしれない。

ここで必要となるのは、「この事業が目指すべき成功とは何なのか」という事業の存在意義をめぐる、より上位の目標に立ち返っての検討である。プラスのアスクル事業についていえば、自社製品の販売網の拡充より企業グループとしてのより大きな成長の方が重要だという経営判断がなければ、他社製品の取り扱いを充実させることは難しい。

中間層マネジャーの抱える困難

こうしたより上位の経営判断を担うのは、企業のトップマネジメント層である。企業のトップマネジメント層は、組織の全体としての成功という観点から、各部門の目標を変更する判断を下すことができる。

中間層のマネジャーの立場は難しい。組織が定めた部門の目標の達成に邁進しなければならない立場で、目標変更を上層部に掛け合うのは、自身の評価を高めるうえでは非効率かもしれない。アスクルのカタログ制作を担当するマネジャーが業績評価を高めるためには、分社化を上司に発案する前にやるべきことはいくらでもある。部門の目標変更が必要となるような部下のイノベーションの発案があったとき、「封印しておく方がリスクは少ない」と中間マネジャーが考えるのはある意味当然だといえる。