消費者の心はどうすれば動くのか。ブランドプロデューサーの村本彩さんは「たくさんの人が欲しがるものを作ってはいけない。私がプロデュースした料理教室では、料理ができる主婦にターゲットを絞って成功をおさめた。考えるべきは、少数の人の心を強く動かせる情緒価値だ」という——。

※本稿は、村本彩『「個人」「小さな会社」こそ、ブランディングで全部うまくいく』(総合法令出版)の一部を再編集したものです。

料理教室
写真=iStock.com/Satoshi-K
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「商品ではなくお客様の心のなかに価値をつくっている」

私がサントリーで商品企画に携わるようになったのは、入社4年目のこと。意気揚々と「新商品をつくるぞ!」と思っていたところ、当時の上司はこう言いました。

「私たちは商品をつくっているのではなく、お客様の心のなかに『価値』をつくっているのよ」

飲料メーカーに入ったのに、商品ではなく価値をつくっているの? しかもお客様の心のなかにつくるって、なんで?

最初は混乱しましたが、月日を重ねるごとに腑に落ちていきました。ビジネスでは、扱っている商品・サービス自体ではなく、価値が一番大切なのです。

どういうことでしょうか。

まずは、「そもそも商品・サービスの価値とは何か」から考えましょう。商品・サービスの価値には、大きく分けて「機能価値」と「情緒価値」の2つがあります。

機能価値とは、その商品が果たす機能面での価値のこと。ペンであれば「文字を書ける」が機能にあたりますから、発色の良さやインクの持ちといった性能・品質が機能価値を左右します。

一方の情緒価値は、それを買ったときや利用するときに気分を良くしてくれる、感情的な価値です。デザインが好みである、愛着のあるメーカーの商品である、といったことが情緒価値になります。

商品・サービスが溢れる現代、市場は飽和しつつあります。性能・品質に遜色のない商品が数多く発売され、機能価値での差別化は難しくなってきました。そうした背景から、今は機能価値よりも情緒価値が重視される時代だと言われています。