そこそこ料理ができる人向けの料理教室
インサイトという概念を初めて耳にする人もいると思うので、具体的な事例をもとにご説明します。
私がブランドコンサルティングをしたクライアントさんに、フリーランスで管理栄養士をしている塚本万智さんという人がいます。彼女が経営しているのは、「シーズニング・レシピ」という料理教室。一般的な料理教室では、どんな食材を扱うか、どのメニューをつくるかをテーマにします。一方シーズニング・レシピで教えるのは、その名の通り調味料(シーズニング)にフォーカスした料理方法です。
素材そのものの味を引き出す調理法と、さまざまな料理に応用できる「調味料の黄金比」。この2つを学ぶことで、家にある食材から献立を組み立てられるようになるのがシーズニング・レシピの特徴です。
この料理教室がターゲットにしたのは、「料理は嫌いじゃないし、初心者向けの料理教室に通うほど料理ができないわけじゃない」というレベルの主婦でした。「今晩は何をつくろう」とネットなどでレシピを調べ、自分でも献立を決められる人たちです。
「もう二度と夕食メニューに悩まない」
彼女たちはそのように料理することについて、大きな問題を感じてはいないでしょう。しかし、食事の支度は毎日のもの。時には、「今晩は何をつくろう」と考えながら憂鬱になることもあるでしょう。
レシピ通りにはつくれるけど、自分で一から献立を考えるのは苦手。支度のたびにクックパッドを検索する日々……。本当は、毎日メニューに悩むのがいや。家にある食材を組み合わせて、レシピを見ずにパパッと美味しい料理をつくりたい。
塚本さんは、そんな理想とのギャップのなかにお客様のインサイトを見つけました。そして、つぎのキャッチコピーを打ち出します。
「もう二度と夕食メニューに悩まない」
「毎日の献立に悩みたくない」という、隠れた本音に訴えかけたわけです。このメッセージが主婦たちの共感を集め、シーズニング・レシピは人気の料理教室になりました。
お客様のインサイトを満たし、強い情緒価値を生み出す。それが、これからの時代に売れる商品・サービスの条件です。