欧米で長い歴史を持つ「アラジン」ブランドの買収

千石のアラジンというブランドも、外部から購入したものだった。アラジンの魔法のランプという火にまつわるイメージから、80年ほど前からイギリスやアメリカで暖房機などに使われてきたブランドである。

日本では1950年代から、このアラジンの石油ストーブの輸入販売が始まり、日本エー・アイ・シーが国内の権利を獲得し、製造販売を行うようになっていた。その製造委託先が千石だった。2005年に日本エー・アイ・シーに事業継承の問題がもち上がった際に千石が買収し、暖房機のブランドとして用いるようになっていた。

千石が買い取ったアラジン・ブランドの販売は安定はしていたが、大きくはなかった。主力はブルーフレームというクラシックなスタイルの石油ストーブで、以前に『暮らしの手帖』で評価されたことなどもあって、固定ファンがついていた。しかし、一部のこだわりのある人たちに購買される以上の展開は見込めず、放置していれば先細りは確実と思われた。

量販店のバイヤー出身者が営業企画担当に

OEMのめどのなくなった千石に残されていたのは、潜在性はあるが課題もある技術とブランドの掛け算だった。そこで自社ブランドでの市場づくりという課題に挑むことになった。千石の営業企画担当者は、量販店の購買担当(バイヤー)から千石に転職し、営業や販売促進などの担当を経て、営業企画を担当するようになっていた。

調理家電の高級化は、近年の国内市場のひとつのトレンドとなっていた。とはいえ、いかにブームだからといっても、トースターの値段を高くすれば、それだけで売れるわけではない。よいものに違いないと消費者に認知してもらえる理由が必要だと考えた。例えば、人気のバルミューダの高級トースターの付加価値は、わかりやすい。水を入れることで生まれる独自の焼き上がりだ。

ではアラジン・トースターの付加価値は、何か。これは、素早くヒーターが高温となることから生まれる焼き上がりだと見定めた。さらに、この価値をいかに広く知らしめるかという課題もあった。アラジン・ブランドの認知率は低かった。家電のバイヤーをしていたこの担当者も、アラジンというブランドを知らなかった。

そこで社内で稟議りんぎをあげ、プレスリリースなどのためのプロモーション予算を確保した。この時点で千石がたてていたアラジン・トースターの販売目標は年1万台。プレスリリースからの報道や会員制交流サイト(SNS)などによる情報拡散をねらった。こうしたプレスリリースへの費用の投入は、千石にとっては初めての経験だった。しかし、高いモノを売るには、プロモーションが欠かせないと社内を説得した。