「災害に弱い」との評価をはね返したトヨタ

災害などにより調達が滞っても、数日分の素材や部品の在庫が組立工場にあれば、生産を続けることはできる。しかしトヨタ生産方式は、無駄を省き、各工場は中間在庫を必要最小限しかもたない。生産の拠点間の相互依存性が高いオペレーションであり、そのためにトヨタ自動車のサプライチェーンは、災害に弱いとの評価もあった。

ところがコロナ禍のもとでのトヨタは、赤字に陥る同業他社も少なくないなかで、黒字を確保している。リーマンショック以降の10年間ほどにトヨタは、国内外の各所で毎年のように生じる地震、水害、火災などの災害に対応するなかで、災害時の組織対応の改善を進めていたことが効果を発揮していると見られる。

トヨタのグローバル・サプライチェーンの危機対応については、すでにプレジデントオンラインにおいて野地秩嘉つねよし氏が「トヨタがコロナ危機のとき『役員向けの報告書』を現場に禁止した理由」とのタイトルのもとでリポートを行っている。以下では、その要点を振り返り、ライブラリ・リサーチの結果も踏まえて、拠点間の相互依存性が高い組織が危機に直面した場合の権限委譲のあり方を見いだしていこう。

東日本大震災以来築き上げてきた取引先データベース

コロナ禍が広がるなかでトヨタの各種の工場間の連鎖にも狂いが生じはじめる。自動車には3万点ほどの部品が必要であり、そのたった一つが欠けても生産はできない。トヨタでは2020年2月4日に生産・物流の対策本部が立ち上がる。この対策本部の役割は、各工場の状況を把握しながら、必要な在庫を確保するべく、調達先工場の切り替えなどの判断と指示を日々行うことである。

トヨタのグローバル・サプライチェーンの危機対応は一夕一朝に出来上がったものではない。阪神淡路大震災からの積み重ねがあるというが、東日本大震災以降にトヨタはサプライチェーンの情報システムの構築を開始し、平時からのデータベースの充実に努めてきた。現在では10次先の取引先までのデータを収集しているという。

このデータベースには、取引先の名称、生産している部品、代替生産が可能な他の工場などがおさめられている。対策本部は被災時にはこのシステムを用いて、問題が生じている工場を特定し、代替生産計画を立て、物流ルートを確立する。

トヨタは、これまでに災害のたびに、生産調査部の若手などの復旧支援のスタッフを、自社だけではなく、取引先工場にも派遣してきた。彼らは復旧のための判断のトレーニングを受けており、専門家的な視角からの情報を現地からトヨタの対策本部に報告する役割も担う。この情報には、復旧に必要な資材や、追加派遣の人員の要請などが含まれる。