関西ろうさい病院での「権限委譲メソッド」

トヨタは日本を代表する巨大なグローバル企業である。スケール感の違いから、その危機対策は自社には縁遠い話と感じてしまう方もいるかもしれない。だがトヨタ流のファンクションを単位とした権限委譲は、より小さな規模の組織でも有効である。このことを確認するために、コロナ禍第1波を受けての地域の病院の対応に目を転じよう。

関西ろうさい病院は、兵庫県尼崎市にある病床数642床の病院である。地域医療支援病院として年間7000件ほどの救急医療を24時間態勢で受け入れている。同病院は、診療部門、事務部門などからなるが、今回取り上げるのは、この病院の看護部門におけるコロナ禍のなかでの対応である。同病院には、嘱託も含めると700名ほどの看護師がいる。部門としての組織立った行動が求められるが、そのスケールはトヨタと比べると格段に小さい。

関西ろうさい病院は感染症指定医療機関ではなく、コロナ禍の第1波、第2波の期間には、新型コロナ患者の診療や入院治療は担当していない。しかし新型コロナ感染の可能性のある帰国者・接触者外来は受け入れており、他の症状で来院、入院した患者が新型コロナに感染している場合もある。感染予防を行い、地域の救急医療が崩壊することのないように対策を進めてきた。

同病院は、新型コロナ患者を受け入れる中核病院とのすみ分けのなかで、コロナ禍のもとでは例年よりは多い数の救急患者を受け入れ、これまでの第1波、第2波では院内感染を発生させることなく、地域医療を支えてきている。

新型コロナの発生を受けての病院の対応

新型コロナウイルスへの感染が拡大しはじめた2020年の3月、関西ろうさい病院の副院長兼看護部長の平井氏のもとに感染管理認定看護師(以下、感染管理CN)から「対応しきれない」との訴えがあった。業務が急増し、情報も錯綜さくそうするなか、仕事をこなせなくなっていたのだ。

一般に病院には、外来や病棟で直接患者に接する看護師の他に、専門性の高い看護を担当する看護師がいる。関西ろうさい病院の場合には、感染管理の他に、がん看護、慢性疾患看護、緩和ケアなどを担当する専門看護師や認定看護師がいるという。

関西ろうさい病院の感染管理CNたちは、日々の保健所との窓口として情報収集に努めるとともに、入手した情報を踏まえた対策を必要に応じて病院内の医師や看護師に伝達していた。コロナ禍のなかで、この保健所とのやり取りや病院内の情報伝達の業務が、大幅に増加していた。