グローバルなサプライチェーンを維持するには
時計の針を1年戻そう。2020年2月までの中国武漢発のコロナ禍の影響は、日本の多くの産業において、中国からの製品や部品や素材の調達が細ったり、止まったりするというサプライチェーン問題だった。コロナ禍を受けて工場などに従業員が出勤できなくなったことが、その主要因である。続いて同様のサプライチェーン問題が、中国以外の国々にも広がっていく。
各地における従業員の出勤と操業を維持するための対策は、国、地域、そして一つひとつの工場によって状況が異なる。グローバル企業の本社がこれらの状況について各拠点の正確な情報を収集し、一つひとつ指示を行おうとすれば、時間を要する。それならば、世界の各国・地域の拠点において、個々に状況を踏まえて判断を行い、行動に移すほうが、より迅速で的確な対応につながる。
単純な権限委譲ではうまくいかないケース
とはいえ、この処方箋には限界がある。国や地域の拠点への権限委譲という処方箋の有効性は、各拠点間の相互依存性が低い場合に限られる。
例えば、工場などの従業員の勤務体制や各種の手当の拡充などについては、各拠点に権限を委譲して、それぞれの判断で柔軟に対応を進めていけばよい。拠点間の相互依存性が低い問題だからである。
しかし、グローバル・サプライチェーンを確立しているメーカーの場合は、最終製品のための素材、部品の生産、そして組み立てを世界の最適地で行い、販売国へ運ぶというオペレーションを日々動かしている。この調達と生産の連鎖については、各工場間の相互依存性が高い。前工程が止まれば、後工程も生産を続けることができない。
後工程が止まっているのに、前工程が生産を続けると、中間在庫が積み上がってしまう。災害などによる変化のなかで各拠点がそれぞれの状況に応じて生産量を独自に決めはじめると、グローバル・サプライチェーンの各所で不足や滞留が生じる。