まずは権限委譲で業務負担を軽減
平井氏は、保健所との窓口は事務部門に交代してもらい、各病棟などへの情報伝達については看護副部長に加わってもらうことにした。看護副部長と感染管理CNで対策本部のような関係をつくり、ここに感染症対策の意思決定と管理の権限を渡すかたちに組織運営を変えたのである。
感染管理CNは、担当する専門領域に通じている。それは机上の知識だけでない。インフルエンザなどの感染症は毎年のように発生する。病室や手術室などで問題が発生するたびに、病院では医師や看護師などが参加する改善プロジェクトを立ち上げており、感染管理CNはそこにリーダーとして参加する。こうした活動を通じて認定看護師は、病院内の各所の部門やスタッフの状況にも通じていた。
管理の徹底は対策チームで補完
では、なぜ、感染管理CNは、コロナ禍に対応しきれないと感じているのか。平井氏は、感染管理CNが苦手としているのは、管理の徹底の問題だと考えた。
感染管理CNは、保健所などから入ってくる情報を踏まえて、病院内での新型コロナウイルスに対応した清掃の方法、防護服の着用方法、あるいは検体の採取方法など決め、その実行を徹底させていくことが職務となる。そのためには各病棟などへの指示の伝え方、そして伝達した内容がきちんと実施されていることの確認が重要になるが、こうした管理活動には感染管理CNは慣れていない。
一方看護副部長は、日常より各種の管理活動を行っている。関西ろうさい病院の看護副部長たちは、必要に応じて担当する病棟などに出向き、日々の指示がどれだけ実行されているか、指示が徹底しにくいのはどの師長が担当する部門かなどを把握したり、改善のためのフォローを行ったりしていた。
こうした日々の管理の経験に富んだ看護副部長と、感染症の専門知識をもつ感染管理CNが連携して、病院内の感染症対策を進めるようにしたのである。これを平井氏は、「人を活かす組織づくり」と語る。
病院では、病棟ごとに患者の病状も異なり、通常は面会や患者の行動などは、病棟ごとの判断で柔軟に対応する。しかし、未知のウイルスに直面するなか、院内感染を発生させないためには、必要な対策をすべての病棟などで徹底しなければならない。一病棟だけで対策が完結するわけではなく、病院内の各部門の行動の徹底が、相互を支え合う状況となっていたことを踏まえての組織対応である。
その結果、コロナ禍の第1波、第2波において、関西ろうさい病院はクラスターを発生させることなく、地域の急性期病院として、通常より多くなった救急患者を受け入れ続けてきた。
現在の第3波のもとでは、新型コロナウイルス感染者の増加に伴い感染症指定医療機関での受け入れが困難になってきている。そのため関西ろうさい病院院も重症患者(ECMO:エクモ対応)などを受け入れ、かつ救急患者の受け入れも継続している。国・地域の動向を見ながらさらに効果的・効率的な組織対応が求められているという。