伊勢谷容疑者が警察にマークされていたのにやめられなかった理由
俳優の伊勢谷友介氏が大麻取締法違反で逮捕された。
私自身、医師の傍ら、映画監督もやっているので感じることだが、伊勢谷氏は演技の質が高く、知的で使いたい役者の一人であった。現に多くの出演作を誇り、今後、数本の映画が公開待ちだという。
東京芸術大学に現役合格し、自らも映画監督も務め、その作品が海外で賞を受けたり、東日本大震災の被災地などへの支援活動を続けたりと、意識の高い知性派俳優の代表格とも言える人だった。
この賢い俳優がなぜ「バカ」なことをしたのかを考えてみたい。ここからは、マスコミ報道が正しかったらという前提での話だということをお断りしておきたい。
自然治癒が難しい進行性の心の病気の可能性がある
彼はだいぶ前から警察からマークされ、満を持しての逮捕だったようだ。ひょっとすると本人も逮捕される危険性をうすうす感じていたかもしれない。つまり、逮捕のリスクがあったにもかかわらず、大麻をやめられなかったということになる。
精神医学の世界では、ある薬物や行為をやめたいと思いながら、あるいはそれが社会的生命に影響を及ぼすことがわかっていてもやめられないとしたら、依存症の診断を受けることになる。伊勢谷氏も依存症である可能性がある。
この依存症の怖さについては、本連載でも以前、問題にした(※)。一般的に、依存症は進行性で自然治癒しづらく、人としての「意志」が壊される恐ろしい病気だということを書いた。
たとえば、アルコール依存、ギャンブル依存、そして伊勢谷氏のような違法薬物(覚せい剤、麻薬、合成麻薬など)依存の場合、いったん、断酒したり、ギャンブルをやめたり、あるいは覚せい剤は二度とやらないと宣言して、しばらくそれを断ってきた人が、またそれに手を出した場合、「意志が弱い」ダメ人間のように言われることが多い。
ところが、違法薬物などによって脳の“ソフト”が書き換えられたり、報酬系と呼ばれる脳の仕組みに病変が起こったり神経伝達物質の分泌に異常が起こったりするために、自分の意志の力ではやめることができない。それが依存症なのだ。
このソフトを書き直すなど、なんらかの治療が必要となる。治療を受けても治らないこともあるやっかいな病気だが、受けなければほとんど治らないからやはり治療が必要だ。