各メディアは不気味なほど静かだった

「たくさんの問題が散らかったままだ」

これは、東京新聞(8月29日付)に載った、安倍の辞任を知った街の声である。

安倍首相が第一次の時と同じように、任期途中で政権を放り出してしまった。理由も同じ持病の悪化である。安倍が8月28日に会見を開くと、突然いい出した。今後のコロナ対策の方針と自身の体調について話すという。

すわ退陣か、各メディアは一斉に騒ぎ立てると思ったが、当日朝のほとんどの新聞は、短く会見があると報じただけだった。

読売新聞だけが、一面トップに「ワクチン、来年前半に全国民分確保へ」と、コロナ対策の全容を特報していたが、会見についての詳しい報道はなかった。私が知る限り、スポニチだけが「首相続投」へと書いただけだった。この不気味な沈黙が何を意味するのか、私には計りかねた。

私が「安倍辞任」を知ったのは朝日新聞デジタル(8月28日 14時50分)の速報だった。

驚きはなかった。「ようやく辞めたか」と思っただけだ。

安倍一強政権を倒したのは、野党でもメディアでも世論でもなく、前回と同じように、自らの内なる病だった。

2020年8月28日、東京都内の首相官邸での記者会見で演説する日本の安倍晋三首相
写真=AFP/時事通信フォト
2020年8月28日、東京都内の首相官邸での記者会見で演説する日本の安倍晋三首相

プロンプターも原稿も見ずに淡々と語った

会見はAbemaTVで見た。最初に感じたのは、「大叔父の佐藤栄作に似てきたな」ということだった。両頬のタレ具合がそっくりだ。

佐藤は辞任会見の時、新聞や民放を追い出し、NHKのカメラだけを残して、それに向かってしゃべり続けた。自分の身勝手な主張を延々と話し続ける姿は、独裁者の成れの果て、醜いと、テレビを見ていてそう思った。

安倍は、プロンプターも使わず、原稿に目を落とすこともなく、直前にまとめたコロナ対策について語り、その後、辞任の弁を話し始めた。

6月に再発の兆候があり、薬を投与されたが、8月に再発が確認された。新しい薬を投与されたが、予断を許さない。体調が万全でないために政治判断を誤ることがあってはならないと思い、辞することを決めた。

悩みに悩んだが、冬を見据えて、新体制に移行するならこのタイミングしかない。佐藤のように高ぶることもなく、淡々と語った。