13年前、自民党が信頼を失った過程に多くが重なる

安倍晋三首相が辞任を表明した。7年8カ月におよぶ長期政権はあっけなく終わったが、それから何日もたたないうちに、自民党内では菅義偉官房長官を推す声があふれ、事実上、後継総裁が決まったような空気が充満している。長い「安倍1強」のあとは「菅1強」が始まるかのようだ。

9月1日には、党員投票を省略する「簡略版」の総裁選ルールの採用を決定。国民の支持の高い石破茂元党幹事長を封じ込め、永田町の論理、派閥力学で首相が選ばれていく展開は、13年前、安倍氏の1度目の辞任劇を起点に自民党が信頼を失っていった時と重なるところも多い。

記者会見する菅義偉官房長官=2020年9月1日、首相官邸
写真=時事通信フォト
記者会見する菅義偉官房長官=2020年9月1日、首相官邸

「現下の最大の課題であるコロナ対応に障害が生じることは避けなければならない。この1カ月程度、その一心でありました。悩みに悩みましたが、7月以降の感染拡大が減少傾向に転じたこと。冬を見すえて実施すべき対応策をとりまとめることができたことから、新体制に移行するのであれば、このタイミングしかないと判断いたしました」

8月28日、日本中を驚かせた退陣会見。安倍氏は、この時期での辞任は、周到にタイミングをはかったもので「政権投げ出しではない」ことを強調してみせた。13年前、たった1年で辞任に追い込まれた辞任は、誰がみても「投げ出し」だった。持病が悪化したとはいえ、国会での代表質問を前にしての退場。国民の評判も悪く党勢は低迷。2年後に衆院選で大敗して下野するきっかけとなった。

その苦い経験があるから13年前との違いを強調したのだ。13年前は辞任した後、入院を続けたため、国政に空白が生まれた。今回は責任を持って新首相が決まるまで執務を続けるという。外交、内政面での喫緊のテーマはない。「コロナの感染拡大が減少傾向に転じた」という楽観的な見通しには異論も多いだろうが、それでも「政治空白はない」というのが安倍氏の理屈だ。

「簡略版」の総裁選は、首相会見と明らかに矛盾している

この会見を受け、自民党はポスト安倍選びを始めたのだが、出発点から論理矛盾を起こしている。最初に二階俊博党幹事長ら党執行部は、党員・党友が投票する正規の総裁選は行わず、9月14日に両院議員総会を開き国会議員と都道府県連による投票で決める方針を打ち出した。「今は一刻の政治空白も許されない」というのがその理由だ。

しかし、安倍氏は総裁選びを行っている間は「次の総理が任命されるまでの間、最後までしっかりとその責任を果たす」と明言している。一方で、両院議員総会での「簡略版」の決着はあくまで緊急事態に対応するためのもの。党執行部は、今が緊急事態であることをみとめているわけで、安倍氏の辞任会見の内容と明らかに食い違う。