だが、また任期途中で放り出せば、口さがないメディアに叩かれるのは必定。そこで、持病が悪化しているという情報をメディアに流し、持病の悪化のために断腸の思いで職を辞する「悲劇の宰相」というイメージをつくり上げようとしたのではないか。
二階氏主導の総裁選は“石破潰し”か
安倍は会見で、「辞任は一人で決断した」と語ったが、この絵を描いたのは安倍ではなく、誰か知恵者がいると思う。では、なぜ、このタイミングだったのか?
冬を見据えたコロナ対応策がまとまったからではないと思う。安倍がいうように、9月には改造人事をしなければいけない。自民党幹事長を現在の二階俊博から意中の岸田文雄にすげ替えるのは、十分な体力があっても難しいが、やらなければ自分の求心力が落ちていくのは間違いない。
10月には五輪中止が発表される可能性大である。解散・総選挙をやるなら、その前の9月中しかないが、やれば大敗するのは目に見えている。
自分の影響力を残し、後継者に自分の息のかかった人間を据え、院政を敷くには、たしかにこのタイミングしかなかったのである。その点では、うまくいったと、安倍首相と仕組んだ連中は、影でほくそ笑んでいるのではないか。
そこから透けて見えてくるのは、“政敵”石破茂に対する執念とも思える憎悪である。
安倍は二階に、総裁選を仕切ってくれるよう頼んだ。“古狸”である二階は、安倍の意を汲み、9月半ばに、自民党の全国の党員・党友による投票はやらずに、国会議員票と都道府県連に割り当てられた票だけで行うようである。
自派の国会議員はわずか19人しかいない石破が勝つには、圧倒的な支持がある党員・党友票が頼りだが、それをそっくり奪ってしまおうという“戦略”である。
永田町という“密室”だけで決めていいはずはない
石破はサンデー毎日(9/13日号)で、後継の決め方を問われ、こう語っている。
「国民、なかんずく党員が納得することが必要だ。自民党はずっと党員獲得運動を続けていて、党本部には『総力結集』『目指せ120万人』のポスターが大々的に張られている。私も幹事長経験者としてよくわかるが、党員獲得のセールストークは『あなたも総理が選べます』。(中略)総理は直接選べないが、自民党員なら総裁(=総理)を選べます、と言って党員を集めることが多かった。その権利が行使できないのなら何のための党員なのか、ということになる」
党員の声は世論である。それを無視して、永田町という“密室”だけで決めてしまっていいはずはない。それでは安倍政治からの決別にはならない。
私は石破がベストの宰相候補であると考えているわけではない。だが、安倍に忠誠を誓う岸田や、官房長官という女房役を長くやってきた菅では、安倍の影武者を据えるようなものである。