※本稿は、キャシー松井『ゴールドマン・サックス流 女性社員の育て方、教えます 励まし方、評価方法、伝え方 10ヶ条』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
「ダメなら、もとのポストに戻ればいい」
読者のなかには、過去に自分の会社で能力のある女性を高いポストに就けようとしたものの、本人から「自分はまだ力不足です」と辞退されて落胆した人がいるかもしれません。私自身、経営トップに向けた講演会などの質疑応答で、「女性活用を進めようとしても、肝心の女性たちが昇進したがらない。どうしたらいいのだろう」という相談を受けることも多いのです。
そこで私が話すのは、「断られたとき、あなたは何をしましたか。簡単に諦めて『では今のポストで満足なんですね』と引き下がったのではありませんか。それでは何も変わらないですよ」ということです。
ダイバーシティや女性活用に意欲と推進力のある経営者として知られ、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)日本法人やカルビー株式会社でトップを務めた松本晃さんも、何度かそうした経験をしたそうです。女性の部下が昇進を断ってきたときに松本さんは、「私がトップとしてあなたを全面的に支えます。失敗するリスクはゼロではないけれども、そのときは私が責任を持ってサポートをする。だから心配しないでがんばってください」と励ましたそうなのです。
それでも尻込みする女性に対しては、「もし駄目だったら、もとのポストに戻ればいいじゃないですか」とまで声をかけ、女性管理職たちの後押しをした。これがターニングポイントになって、女性の管理職が生まれ始めたそうです。
女性の方が「慎重」なのは、日本だけではない
そうなればしめたもの。高いポストに就いて活躍している女性たちを見て、その周囲にいる女性たちも「あの人にできるなら、私もがんばればできるかもしれない」「先輩ががんばっているのを見ていたら、私も管理職を目指したくなった」とばかりに後に続いていったそうです。
そうした取り組みが成果をあげ、ジョンソン・エンド・ジョンソン社は2018年の「女性が活躍する会社BEST100」の1位に。カルビーも女性活躍に優れた上場企業を選定する「なでしこ銘柄」に7年連続で選ばれています。また両企業とも、その間に業績を大きく伸ばすことに成功しているのです。
松本さんが女性たちに対して行ったのは、「私はあなたを見ています。あなたの能力を信じています。この仕事をきっとあなたはやり遂げると信じています」と相手を勇気づけ、後押しすることでした。
どうしてそんな面倒なことをしなければならないのだろう――と思うかもしれません。そこには女性が、男性よりも慎重――言い換えれば「用心深い」という傾向があることをぜひ知っていただきたいと思います。「それは日本女性の嗜みだからだろう」とお考えでしょうか? いいえ、実はその傾向は全世界的なものなのです。