新型コロナウイルスの対応を巡り、政府は「専門家会議」の見解をたびたび利用してきた。しかし、それでよかったのだろうか。精神科医の和田秀樹氏は「安倍晋三首相を含む政府首脳は、偏った意見だけを採り入れるという思考停止に陥っている。これこそが私がずっと主張している『バカ化』という現象だ」という――。
記者会見でクラスター対策について説明する新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の尾身茂副座長=2020年5月29日、東京・霞が関の厚生労働省
写真=時事通信フォト
記者会見でクラスター対策について説明する新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の尾身茂副座長=2020年5月29日、東京・霞が関の厚生労働省

「バカ化」している安倍政権にコロナ第2波対策を任せられるのか

私は本連載で新型コロナウイルス感染拡大の対応をする政府を批判してきた。なぜなら、安倍晋三首相を含む政府首脳が、感染症の専門家の話ばかりに耳を傾け、半ば言いなりになっている印象を受けたからだ。

彼らが国民に要請した「ステイホーム」政策を立案する上で、感染症以外の専門家や医師の意見を求めることはなかった。私は、精神医学的なことや免疫学的な悪影響をほとんど考えない「とにかく家から出るな」という対策がいちばん正しい解決法とは思えなかった。

自宅に閉じこもり続けることによって引き起こされる、うつ病やアルコール依存、またロコモティブシンドローム(その後の寝たきり状態を含む)などのリスクや、経済への影響などを最小限に抑える方法を準備するため、感染症以外の専門家の声を聞くべきだった。それが私の考えだ。

だが、私は私の考えのみが正しくて、感染症学者や政府の言うことが間違っていると言いたいわけではない。そうではなく、いろいろな角度から情報を集めるための材料を国民に提供すべきだと思ったのだ。

「異なった視点による複数の見解を総合的に判断」こそ重要

コロナとは別の話だが、「異なった視点による複数の見解を総合的に判断して結論を出すことの重要性」を感じさせる案件が5月末にあった。

5月28日、全国で130店舗以上を展開するビジネスホテルチェーン「スーパーホテル」の支配人・副支配人だった男女が、記者会見を開き、未払いの残業代など計約6200万円を求め、東京地裁に提訴したことを報告した。

これを受けて、「『24H労働、手取り月10万円』住み込みの“名ばかり支配人”、スーパーホテルを提訴」(弁護士ドットコム)といった記事も出たため、多くの人々が同ホテルを批判している。

業務委託契約で働いている支配人と副支配人の主な訴えは、自分たちは厳しいマニュアルで縛られ、実質24時間労働であり、ホテル従業員のアルバイトに払う金を差し引くと手取り月10万円程度でしかなく、ホテルに未払いの残業代を払え、という内容だ。契約解除の無効も求めている。

同ホテルは、顧客満足度を扱う調査会社J.D.パワーの「ホテル宿泊客満足度調査」の1泊9000円未満の部門で5年連続「宿泊客満足度1位」になっている。

たまたま私の親族が同ホテルで働いていたので、聞いてみた。すると、ホテル側は、この男女に対してアルバイトの人件費などを含めて毎月約130万円を支払っていたが、ほとんどバイトなどを雇った形跡がなく、きちんと仕事をしないのでホテルの稼働率がとても低かった、ということだった。