東京を中心にする展開する立ち食いそばチェーン「名代 富士そば」は、なぜ人気なのか。飲食チェーンに詳しい稲田俊輔氏は、「チェーン店らしからぬ、個人店のような独特さが人気の秘密ではないか」という——。

※本稿は、稲田俊輔『人気飲食チェーンの本当のスゴさがわかる本』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。

東京は立ち食いそば屋であふれかえっている

一般に、西日本はうどん文化圏、東日本はそば文化圏と言われています。人生のほとんどを西日本で過ごしている私にとって、そばはずっと縁遠い食べ物でした。それこそ大晦日おおみそかにだけ食べる特別な食べ物という認識です。

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しかしその後ちょくちょく東京で仕事をするようになってから、私はそばにハマりました。特に、昼でもない夜でもない中途半端な時間帯に老舗のそば屋ならではのそば味噌みそや天抜きといったつまみ、いわゆる「そば前」をつつきながらゆっくり酒を飲む、なんてのはなかなか贅沢ぜいたくな楽しみです。

もちろん最後にはもりそばをたぐって、そば湯で締めます。正直、最初は形から入りましたが、なんだか自分がいっぱしの大人になったようないい気分でした。

こういうのはいわば「そばの名店」での楽しみ方です。東京では神田などの古い町を中心にこういう店がいくつもありますが、もっと気軽なそば屋はそれよりはるかにたくさんあります。そば文化の厚みといいますか、東京はどこでもとにかくやたらめったらそば屋がある印象です。東京の人はどんだけそばが好きなんだろうと最初は驚きました。

ちょっとした繁華街がある駅前なら、付近には必ず立ち食いを中心にそば屋が数軒はあります。なかでも一番よく目につくのが「富士そば」です。