狭心症治療薬の副作用の研究からバイアグラが誕生

1980年代末、医薬品メーカー、ファイザーの研究者たちは、当時UK-92,480として知られていた化合物を狭心症の治療に使う実験を開始した。だが、試験管内の実験と動物実験では有望に見えたこの化合物は、ヒトに対する臨床試験ではほとんど効果を示さなかった。

この否定的な結果を前に、ほかの企業なら敗北を認めて、新しいプロジェクトに移っていたかもしれない。だが、ファイザーの研究者たちは、興味深い副作用と思われたものを取り上げ、それを掘り下げる研究を行った。その副作用はイノベーションのプロセスをまったく新しい方向に導き、最終的にファイザーにとって歴史的な利益を出す商品となった。これが、バイアグラの誕生である。

ファイザーがこの新薬開発に成功したのは、イノベーション・プロセスのいわゆる「フォールス・ネガティブ」(最終的に誤りとなる失敗のサイン)にうまく対処したからだ。揺るぎない姿勢を持つ研究者たちは、新薬が当初予定していた狭心症に効果を示さなくても、その先に目を向けることができた。彼らは、UK-92480をスクラップの山から拾い上げ、歴史的な大型新薬に転換したのだ。