自社で売れないならベンチャー企業で
ルーセント・テクノロジー(現アルカテル・ルーセント)は、社内では使えないと判断された、ベル研究所内の技術を商品化するベンチャー企業を立ち上げるべく、ニュー・ベンチャー・グループ(NVG)を設立した。NVGチームは、ルーセント自身の事業部門では市場に出せないと判断された有望な技術を掘り起こし、ルーセント内で市場化を再検討させた。やはり使えないと判断した場合、その技術の商品化に取り組むベンチャー企業を設立した。
この方式の採用以降、ルーセントの事業部門はP&Gの例と同じく、決断を下すことに非常に慎重になった。
NVGは、96年から2001年の間に、ベル研究所から35のベンチャー企業を立ち上げた。多くは撤退したが、いくつかは利益を生む企業に成長し、うち3社は後にルーセントに吸収された。ルーセントがそれらの技術を、社内で商品化しないと決めてからわずか2~3年後のことである。
ルーセントの事業部門はどうしてこれらの技術の価値を見抜けなかったのか。私は、それは事業部門の判断ミスではなかったと思う。初期段階の技術評価に必然的に伴う不確実さから生じた、測定の誤りだったのだ。
35のプロジェクトのうち3つが「ポジティブ」だと判明したことは、ルーセントの事業部門にとって決してお粗末な実績ではない。だが、ルーセントがNVGを自社のイノベーション・プロセスに組み込んでいなかったら、これらのベンチャー企業によって生み出された情報は表に現れなかっただろう。それらは、ベル研究所の内部に永遠に埋もれていたかもしれないのである。