今年10月から始まった幼児教育と保育の無償化に合わせて、助成金を目当てに利用料を引き上げる「便乗値上げ」の動きがある。大阪府立大学の吉田直哉准教授は「値上げがあっても保護者の負担は増えない。便乗値上げに国が不快感を示すのは間違っている」という――。
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待機児童は保育の「量」の問題

10月1日、「幼保無償化」が施行されたとの報道が、列島を駆け巡った。現在、就学前の子どもを育てている保護者にとっては「福音」とも受けとめられる一方で、子育ての「当事者」でない多くの国民にとっては、「なぜ、今なのか」という唐突な印象を抱かせたニュースではなかっただろうか。このように、今回の「無償化」が、国民にさまざまな感想を抱かせたとしたら、それは、幼児教育・保育が抱える「問題」に対する国民それぞれの認識の焦点が多様だからである。

2010年代以降、相次ぐ国政選挙の中で、主要政党が子育て施策、保育政策を選挙公約の中に明示することが常態化した。その施策とは、第一に「待機児童」対策であった。この点について、主要政党間で大きな見解の相違は見られず、超党派的な暗黙の合意が成立しているように思われる。しかし、この「待機児童」問題というのは、都市部特有の現象であり、そこで「待機」させられているのは0歳から2歳の低年齢児である。「待機児童」問題とは、「都市部における、低年齢児保育の受け皿を拡大せよ」という「保育の量の拡大」への世論からの圧力に、政治がどこまで応えられるか、という問題だったのである。