モヤモヤする……正解は④なのか④ではないのか

しかし、そうは簡単にいかない。この設問には、「【資料Ⅱ】を踏まえて考えられる例として」という条件が付されているからだ。つまり、【資料Ⅱ】は「著作物」をどのように定義しているのか、その点を参照せねば答えは選べないのである。

【資料Ⅱ】(「著作権法」より一部抜粋)

第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

この「著作権法」では、〈著作物=思想又は感情を創作的に表現したもの〉と明言されている。つまり、ここでは「著作物」とは、「思想又は感情」という〈抽象的な概念〉ではなく、それを作品として「表現したもの」、すわなち〈物理的な作品〉であると定義していると解釈できるのだ。

ここで受験者の思考は行き詰まることになる。

【文章】を優先するなら、答えは、「著作物」を「思想や感情」という〈抽象的な概念〉と説明する、選択肢④ということになる。反対に、【資料Ⅱ】を優先するなら、【資料Ⅱ】は〈著作物=物理的な作品〉と説明するのだから、選択肢④だけは、何があっても正解にはなりえないことになる……。

では、大学入試センターが発表した答えは、はたしてどの選択肢なのか?

ズバリ、選択肢④なのである。

すなわち大学入試センターの意図としては、〈【資料Ⅱ】は踏まえなければいけないけれど、それはあくまでサブ。メインとなる情報はあくまで【文章】です〉ということなのだろう。選択肢④中の「思想や感情」という語句は、【資料Ⅱ】中の「思想又は感情を創作的に表現したもの」という叙述から拝借したものとなっており、この点で確かに、選択肢④は【資料Ⅱ】を踏まえた内容になっている。しかし、「著作物」を〈抽象的な概念〉と説明している点で、【文章】をメインとした解説になっているのだから……。

要するに、この設問の作られ方から、〈大学入学共通テストでは、“【文章】=メイン・【資料】=サブ”として扱う〉という暗黙のルールが確認できるのだ。

けれども、それは決して明言されたルールではない。「【資料Ⅱ】を踏まえて考えられる例として最も適当なもの」と指示されたとき、受験生が【資料Ⅱ】をメイン情報としてとらえてしまうことは、はたして間違った判断であると言えるのだろうか。