これでは入試問題として“失格”なのではないか

こんな紛らわしい設問は、入試問題としては完全に失格だ。読者の中には、このモデルケースを僕がおおげさに誇張した恣意的な例とお考えになるかもしれない。では、以下に参照する、実際の試行調査問題についてはどう判断するだろうか。

【2018年実施 第2回試行調査 現代文第2問】より

【資料Ⅱ】(「著作権法」より一部抜粋)

第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

【文章】

(段落1)著作者は最初の作品を何らかの実体――記録メディア――に載せて発表する。その実体は紙であったり、カンバスであったり、空気振動であったり、光ディスクであったりする。この最初の作品をそれが載せられた実体とともに「原作品」――オリジナル――と呼ぶ。

(段落2)著作権法は、じつは、この原作品のなかに存在するエッセンスを引き出して「著作物」と定義していることになる。そのエッセンスとは何か。記録メディアから剥がされた記号列になる。著作権が対象とするものは原作品ではなく、この記号列としての著作物である。

(段落3)論理的には、著作権法のコントロール対象は著作物である。しかし、そのコントロールは著作物という概念を介して物理的な実態――複製物など――へと及ぶのである。現実の作品は、物理的には、あるいは消失し、あるいは拡散してしまう。だが著作権法は、著作物を頑丈な概念として扱う。

(段落4)もうひと言。著作物は、かりに原作品が壊されても盗まれても、保護期間内であれば、そのまま存続する。また、破れた書籍のなかにも、音程を外した歌唱のなかにも、存在する。現代のプラトニズム、とも言える。(後略)

(名和小太郎『著作権2.0 ウェブ時代の文化発展をめざして』より)

問2 段落2の文中に「記録メディアから剥がされた記号列」(太字)とあるが、それはどういうものか。【資料Ⅱ】を踏まえて考えられる例として最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。

①実演、レコード、放送及び有線放送に関するすべての文化的所産。
②小説家が執筆した手書きの原稿を活字で印刷した文芸雑誌。
③画家が制作した、消失したり散逸したりしていない美術品。
④作曲家が音楽作品を通じて創作的に表現した思想や感情。
⑤著作権法ではコントロールできないオリジナルな舞踏や歌唱。

まず、段落2で「記録メディアから剥がされた記号列」の直後に、「この記号列としての著作物」とある。つまり、この「記号列」とは、「著作物」のことなのである。すなわちこの設問は、「著作物」を説明した例として適切なものを選ぶ問題であるとわかる。