こうした理由があって、多くの企業で、海外赴任者が減っていったのである。もちろん、「国境を越えたビジネスを任せられる」人材は、必ずしも今、本社にいる人材だけでなくてもよい。外部からの採用でもいいし、ある有名証券会社が行ったように、海外企業を買収し、その会社の(主に外国人)人材をあてにしてもよい。だが、私の実感では、多くの企業ではコア人材の外部採用や外国人人材のマネジメントに不得手な傾向がある。それはそれで問題だが、重要なのは「日本人のグローバル対応能力向上」であろう。
したがって私は、人材グローバル化で最も重要なポイントは何かと聞かれれば、それは海外赴任者を絶やさず、また赴任が、リーダーとしての学習経験になるように仕組むことだと答えることにしている。ここで重要なのは、単に役割を与えるだけではなく、それが成功体験になるように企業として支援することである。もちろん、これだけで人材のグローバル化が完成するわけではないが、これがないと、グローバルビジネスを回す人材が育たない。
では、どうすればよいのか。私は人材のグローバル化には、戦略認識と時間感覚が重要だと思っている。戦略認識とは、現在企業がもっているビジネスにおけるグローバル化の方向性をきちんと把握することであり、また、時間感覚とは、戦略の展開に合わせて必要になるグローバル人材のタイプと、その供給のためにかかる時間に関する認識である。
まず、戦略という意味で言えば、基本的には多くの企業が、企業のグローバル化段階で言えば「マルチナショナル」または「インターナショナル」段階にいると考えられる(図参照)。いわば本社中心の、広い意味での「輸出」が主な段階である。